ARNYS Forestière ― Appointment Only
1990年代頃以降のイタリア製"Capalbio(カパルビオ)"より、フランスのワークウェアに見られるブラックモールスキンを使用した、マレンマ地方伝統のハンティングジャケット。
イタリア・トスカーナ州南部に位置するマレンマ地方の歴史と文化を背景に持つ"Capalbio"。1992年に誕生した同ブランドは、トスカーナ地方に古くから伝わる農夫や狩猟家、馬上で家畜を管理する牧夫たちの作業着を現代的に再解釈したジャケットを中心に展開してきました。
その象徴的な存在が、19世紀初頭に起源を持つとされる"Giacca Maremmana(マレンマジャケット)"です。
当時のマレンマ地方では、広大な農地や森林を移動する人々にとって、耐久性と機能性を備えた衣服が不可欠でした。そうした生活環境の中で発展したジャケットは、乗馬時の動きやすさを考慮したゆとりのある身頃、道具や獲物を収納するための独特なポケット構造、丈夫な天然繊維の生地など、実用性を追求した特徴を備えています。本品は、そうした伝統的なマレンマジャケットの意匠を色濃く受け継ぎながら、フランスのヴィンテージワークウェアにも通じる素材使いを取り入れた一着です。
最大の特徴となるのは、深みのあるブラックカラーのコットンモールスキン。モールスキンは高密度に織り上げたコットン生地の表面を起毛させることで、しっとりとした滑らかな質感と優れた耐久性を実現した素材です。フランスでは古くから労働者の作業着に採用されてきた歴史を持ち、現在ではヴィンテージワークウェアを象徴する素材の一つとして知られています。本品に使用されたモールスキンも、目の詰まった生地ならではの重厚感と、表面に現れる独特な鈍い光沢が印象的です。
長年の着用によって生まれた自然なアタリや褪色が、ブラックからチャコールグレーへと移り変わる豊かな色彩を形成。襟やポケットの縁、縫製部分には柔らかな濃淡が現れており、生地そのものが持つ美しい経年変化を楽しめる仕上がりとなっています。
フロントはクラシックなシングルブレストを基本としながら、やや大ぶりなノッチドラペルを採用。襟を寝かせた状態ではテーラードジャケットに近い端正な表情を見せ、襟を立てることでハンティングジャケットらしい力強さが際立ちます。首元まで覆うことのできる構造は、屋外での着用を前提とした伝統的なワークウェアの名残を感じさせます。
肩から胸にかけては、前後に水平な切り替えを設けた独特なヨーク構造。一見すると装飾的にも映るディテールですが、実用着として発展してきたマレンマジャケットらしい構築的なデザインです。
胸元には、先端を尖らせたフラップ付きのパッチポケットを配置。片側のみに設けられた非対称なポケット構成が、クラシックなジャケットに程よい変化を与えています。
さらに特徴的なのが、フロント下部に設けられた大型のポケットです。一般的なパッチポケットとは異なり、開口部から前立ての両脇へ向かって縦長のラインを描く、独創的な形状を採用しています。中央に向かって長く伸びる縁取りと、外側へ大きく膨らむポケットの曲線が組み合わされ、他のハンティングジャケットにはない個性的な表情を形成。物の出し入れを考慮した実用的な構造でありながら、ジャケット全体のデザインを決定づける重要なディテールとなっています。
また、背面には肩甲骨付近を横断するヨークと、中央に走る縦方向のステッチを配置。両脇にはボタン付きの開口部が設けられており、獲物や道具の収納を目的として発展した伝統的なハンティングウェアの構造を思わせます。
マレンマ地方のジャケット特有の、実用性を重視した設計思想が随所に感じられます。
袖は肩から自然に落ちるゆとりのあるシルエット。袖口には本切迫仕様を採用しており、実際にボタンを開閉できる本格的な仕立てとなっています。ワークウェアを起源とするジャケットでありながら、テーラリングに見られる丁寧な仕様を取り入れている点も魅力です。
また、裏地にはヴィスコース素材を使用。ブラックとグレーの細かな色糸が混ざり合う、ごま塩状の独特な織り柄が特徴的です。滑らかなヴィスコースの質感によって袖通しにも配慮されており、表地の無骨なモールスキンとの素材的な対比も楽しめます。華美な装飾を加えることなく、素材や縫製、構造そのものによって独自の存在感を生み出している点は、本品の大きな魅力と言えるでしょう。
全体のシルエットは、身幅と肩周りに適度なゆとりを持たせたリラックス感のある設計。着丈にも十分な長さがあり、ジャケットとしてだけでなく、軽いハーフコートのような感覚でも着用いただけます。
厚手のニットやスウェットとの重ね着にも適しており、秋冬のアウターとして幅広いスタイリングに対応します。
ウールスラックスと合わせれば、イタリアらしい上品なカントリースタイルに。一方で、ヴィンテージデニムやワークパンツと組み合わせれば、フランスの古い作業着を思わせる無骨な雰囲気を楽しめます。
トスカーナの生活文化を背景とした歴史的なデザイン、フランスのワークウェアを彷彿とさせる生地、そしてイタリア製ならではの丁寧な仕立て。異なる地域の服飾文化が自然に交差した、非常に興味深い一着です。
単なるワークジャケットではなく、長い年月をかけて完成された実用服の機能美と、現代のファッションにも通用する造形的な魅力を兼ね備えた逸品。
使い込まれたブラックモールスキンの豊かな表情と、マレンマジャケット特有の独創的なディテールを存分にお楽しみいただけます。
■size(cm)
表記サイズ:48
肩幅53/身幅60/着丈78/袖丈64
■textile
Shell:Cotton100%
Lining:Viscose100%
■model
■condition
右ポケットのボタンが欠損しております。
着用感はございますが、綺麗な状態です。
その他は画像をご確認下さいませ。
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