ARNYS Forestière ― Appointment Only
"HERMÈS(エルメス)"を象徴するプロダクトのひとつ、"Carré(カレ)"。
フランス語で「正方形」を意味するその名の通り、1937年に誕生したシルクスカーフは、単なる服飾小物という枠を越え、エルメスが長い年月をかけて築き上げてきた色彩、プリント、そして物語性を一枚の正方形の中に凝縮した存在です。
今回ご紹介するのは、約90cm四方の最も象徴的なサイズである"Carré 90"。
作品名は"BRIDE DE COUR(法廷の勒)"。図柄の片隅には"F de LA PERRIERE"のサインが入り、エルメスのカレを数多く手掛けたFrançoise de La Perrière(フランソワーズ・ド・ラ・ペリエール)による作品であることが確認できます。
そして、この作品を一目見てまず惹かれるのが、画面中央に大きく描かれた豪華な馬具。1837年、Thierry Hermès(ティエリ・エルメス)によってパリで創業したエルメスは、現在のような総合的なラグジュアリーメゾンになる以前、高級馬具を製作する工房としてその歴史をスタートさせました。馬具製作によって培われた革の扱いや職人技術は、後のバッグやレザーグッズへと受け継がれ、馬、鞍、鐙、手綱、馬車といったモチーフもまた、現在までエルメスのクリエーションに繰り返し登場しています。
その意味で"BRIDE DE COUR"は、エルメスというメゾンの原点を極めて直接的に感じられるカレのひとつと言えるでしょう。
中央に描かれているのは、単なる実用品としての馬具ではありません。ブラックとブラウンのレザーを基調とした馬具に、ゴールドを思わせる華麗な装飾が施され、帯状のパーツには幾何学的な文様。中央には人の顔を思わせるレリーフが据えられ、左右には大きな房飾りが垂れ下がっています。
さらに中央から下がる楕円形のメダリオンには人物像が描かれ、周囲を細かな装飾が取り囲む。馬具という機能的な道具を描いていながら、宝飾品や宮廷装飾を眺めているような華やかさがあります。
"BRIDE DE COUR"というタイトルからも、この意匠が日常的な馬具というより、儀礼性や格式を伴う華麗な馬具の世界を表現したものであることが窺えます。
ここで面白いのが、エルメスが馬具を単なるブランドの象徴として簡略化して描いていないこと。革の重なり、金具の立体感、ステッチ、バックル、房飾りの一本一本に至るまで、非常に細かな線によって描き分けられています。特にブラックのレザーストラップを見ると、表面に走るハイライトや裏側に覗くブラウンまで描写されており、平面的なプリントでありながら革の厚みや湾曲まで感じられるほど。
金具についても同様です。バックルの縁に並ぶ粒状の装飾、チェーン、メダリオン、帯状の金属装飾。それぞれに濃淡を与えることで、ゴールドの光沢と立体感を表現しています。
エルメスが一枚のカレを「絵」として成立させてきた理由が、こうした細部を見るほどよく分かります。
中央の馬具を背景から浮かび上がらせるのが、大きく取られたグリーンのフィールド。その周囲には植物を思わせる流麗な装飾が左右対称に広がり、さらにフリンジを描いた縁取りが一周します。実際の布や敷物の上に馬具を置いたかのような構成で、中央のグリーン自体が一枚の装飾的なタペストリーのようにも見えます。その外側にはアイボリーの余白を挟みながら、グリーンとゴールドによる編み紐のようなボーダー。さらに四隅には、馬具を思わせる円環やストラップ、棒状のパーツが複雑に交差する意匠が配されています。
中央から外周へと何重にもフレームを重ねることで、視線は自然と中央の馬具へ集まる構成。近くで見れば一つひとつのパーツに目を奪われますが、90cm四方まで視点を引くと、非常に整然とした一枚の紋章のように見えてきます。
そして、本品をさらに魅力的にしているのがカラーリングです。外周を大きく占めるのは、深みのあるボルドー。その内側にはアイボリー、オリーブを思わせるグリーン、ゴールド、ブラウン、ブラックが重ねられています。鮮やかな原色を強くぶつけるのではなく、いずれも僅かに深みを持った色でまとめられているため、非常にクラシカルな印象。
広げた状態ではボルドーの大きな外周が額縁のような役割を果たし、その中からアイボリーとグリーンの画面が浮かび上がります。
中央に使われたブラックが全体を引き締め、そこへゴールドやブラウンが加わることで、馬具の華やかさが際立つ。
一方で実際に首元へ巻けば、この構図は大きく崩れます。ボルドーの中からゴールドの馬具が覗いたり、オリーブグリーンとアイボリーが折り重なったり、ブラックのストラップだけが直線的に現れたりする。広げた状態では明確に「馬具」を描いた作品ですが、折り畳むことで元の図柄から離れ、複雑な抽象柄のような表情へと変化します。カレは広げた時と巻いた時で全く異なる表情を見せますが、本品はボルドー、グリーン、アイボリーという大きな色面が存在するため、その変化を特に楽しめるカラーリングでしょう。
素材にはシルクを使用。エルメスのカレを語る上で欠かせないのが、このシルクツイルという素材です。適度な厚みとハリを備えた生地だからこそ、馬具のステッチや金属装飾、植物文様といった細密な線を鮮明に受け止めることができ、同時に首へ巻いた際には立体的なドレープが生まれます。シルクならではの光沢も強すぎるものではなく、角度や光の当たり方によってボルドーやグリーンの表情が僅かに変化します。平面の状態で見る色と、首元で布が重なった際に見える色が異なるのも、この素材ならではでしょう。
また、縁にはエルメスのカレを象徴するロール状の仕上げが施されています。
一枚のスカーフを広げて眺めれば、その中心にあるのは華麗な馬具。
しかし実際に身につける際、その全貌が見えることはほとんどありません。
首元から覗くボルドー、ゴールドの装飾、オリーブグリーン。ジャケットの襟元へ差し込めばブラックのストラップやアイボリーのボーダーが現れ、折り方を変えれば全く別の柄に見える。
「一枚の絵」でありながら、折り方によって無数の柄へ変化することこそ、カレの面白さです。
そして"BRIDE DE COUR"の場合、その題材自体がエルメスにとって特別な意味を持っています。馬具工房として始まったメゾンが、自らの原点である馬具をシルクの上に描き、その機能的な構造を装飾へと変換する。
中央に描かれた革、金具、房飾り、メダリオン。そこから外側へ広がる植物文様やボーダー、そして全体を包み込む深いボルドー。
Françoise de La Perrièreによる緻密な描写と構成によって、エルメスのルーツそのものが一枚の正方形の中に収められています。
"BRIDE DE COUR"。
馬具というエルメスの原点と、カレというメゾンを象徴するプロダクトが一枚の中で交差する、非常にエルメスらしいCarré 90です。
■size(cm)
表記サイズ:90
■textile
Shell:Silk100%
■model
■condition
使用感がございます。
その他は画像をご確認下さいませ。
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