ARNYS Forestière ― Appointment Only
"HERMÈS(エルメス)"を象徴するプロダクトのひとつ、"Carré(カレ)"。
フランス語で「正方形」を意味するその名の通り、1937年に誕生したシルクスカーフは、単なる服飾小物という枠を越え、エルメスが長い年月をかけて築き上げてきた色彩、プリント、そして物語性を一枚の正方形の中に凝縮した存在です。
今回ご紹介するのは、約90cm四方の最も象徴的なサイズである"Carré 90"。作品名は"L'Armée Impériale Russe de 1816 à 1916(ロシア軍事博物館)"。エルメスの数々のカレを手掛けたMichel Duchêne(ミシェル・デュシェーヌ)によってデザインされた一枚です。
タイトルが示す通り、本作の題材となっているのは19世紀から20世紀初頭にかけてのロシア帝国軍。1816年から1916年という約100年間をテーマに、騎兵、歩兵、軍楽隊、様々な軍服や帽子、そして馬具に至るまで、当時の軍装を思わせるモチーフが一枚のシルクの中へ緻密に描き込まれています。
まず目を惹くのが、中央に配置された騎兵たち。鮮烈なレッドを背景として、白馬に跨った騎兵が円を描くように反復して配置されています。馬の頭部を外側へ向け、騎手の身体を中心へ集めることで、ひとつひとつは写実的な騎馬図でありながら、全体では花弁や万華鏡を思わせる幾何学模様へと変化しています。
近くで見れば馬と騎手。
少し距離を取って眺めれば、一つの巨大な装飾文様。
この具象と抽象の間を行き来する構成こそ、本作の大きな魅力でしょう。
中央を囲うように設けられた区画にも、それぞれ異なる人物や騎馬像が描かれています。白馬に跨る軍人、直立した兵士、色鮮やかな軍服、サーベル、ブーツ、肩章。そして四隅には様々な形状の軍帽や装具。単純に騎兵の勇壮な姿だけを描くのではなく、当時の軍装そのものを図鑑のように見せている点が秀逸です。
下部には作品名である"L'ARMÉE IMPÉRIALE RUSSE DE 1816 À 1916"の文字。その下には異なる装いの4人の兵士が並び、それぞれの制服、帽子、装飾、装備が細かく描き分けられています。
一枚のカレの中にこれほど多くの人物を配置しながら、全体が散漫に見えないのは、Michel Duchêneによる構成の巧さによるもの。
各場面はレッド、ホワイト、ブルーを基調としたロープ状のフレームによって区切られ、その上にはゴールド系の葉を思わせる装飾が規則的に重なります。さらにフレームの交点には円形の意匠を配置。人物や馬が自由に動き回る画面に対し、幾何学的なフレームが明確な秩序を与えています。
そして、本作を語る上で欠かせないのが"馬"という存在です。1837年、Thierry Hermès(ティエリ・エルメス)によってパリで創業したエルメスは、もともと馬具工房としてその歴史をスタートさせました。現在ではバッグやウェア、ジュエリー、時計、香水まで幅広く展開するメゾンとなりましたが、馬具に由来するモチーフは現在に至るまでエルメスのクリエーションの中に繰り返し登場します。
本作も軍事史を題材としながら、画面の中心に存在するのはあくまで馬と騎手。馬の身体、鞍、鐙、手綱、騎手の姿勢まで細かく描かれており、ロシア帝国軍という題材を通して、エルメスが最も得意としてきた馬術の世界を見ることのできる一枚でもあります。
今回の個体をさらに魅力的にしているのが、レッドを中心とした非常に力強いカラーリングです。大部分を占める鮮烈なレッドに対し、騎馬図の背景には柔らかなアイボリー。そこへブルー、グリーン、ゴールド、ホワイトなどが細かく差し込まれています。
そして外周を囲うのは、深く落ち着いたネイビー。このネイビーの縁取りがあることで、強いレッドが画面の外へ散ることなく、90cm四方の中へ美しく収まっています。
広げた状態では、歴史画や軍装図鑑を思わせるほど圧倒的な情報量。
しかし首元へ巻くと、その印象は大きく変わります。
レッドの面、白馬の身体、ブルーの軍服、トリコロールのフレーム、そしてネイビーの縁。それぞれが折り重なることで、元々ロシア帝国軍を描いていたとは思えないほど抽象的な柄として現れます。カレは広げた時と巻いた時で全く異なる表情を見せますが、本品は中央から外側へ向かって明確に図柄が切り替わる構成だからこそ、その変化を特に楽しめる一枚でしょう。
素材には上質なシルクを使用。エルメスのカレを語る上で欠かせないのが、このシルクツイルという素材です。適度な厚みとハリを備えた生地だからこそ、軍服の装飾や馬具といった細かな線まで鮮明に表現することができ、同時に首へ巻いた際には立体的なドレープが生まれます。表面にはシルクならではの美しい光沢があり、光を受けることでレッドやネイビーの色調が僅かに変化するのも魅力。
また、カレの縁にはエルメスらしいロール状の仕上げが施されています。
一枚のスカーフを広げて眺めれば、その情報量には驚かされます。
しかし実際に身につける際、その全てが見えることはありません。
首元から覗く一頭の白馬、軍服のブルー、鮮烈なレッド、そして外周のネイビー。ジャケットの襟元に収めれば、また違った抽象柄のように見える。
「一枚の絵」でありながら、折り方によって無数の柄へ変化することこそ、カレの面白さです。
"L'Armée Impériale Russe de 1816 à 1916"は、軍装という歴史的な題材と、エルメスの原点である馬術の世界が美しく重なった作品。
Michel Duchêneによる緻密な描写、幾何学的な構成、そしてレッドとネイビーを中心とした力強い色彩。
広げて眺めても、実際に身につけても、その魅力を存分に楽しんでいただけるCarré 90です。
■size(cm)
表記サイズ:90
■textile
Shell:Silk100%
■model
■condition
使用感はございますが比較的綺麗な状態です。
その他は画像をご確認下さいませ。
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