ARNYS Forestière ― Appointment Only
"PRADA(プラダ)"というブランドを語るうえで、「ナイロン」という素材は切り離すことのできない存在。
レザーやウール、シルクといった伝統的に高級とされてきた素材とは異なり、本来ナイロンは工業製品やスポーツウェア、軍用品など、機能を優先する領域で発展してきた人工繊維です。Miuccia Pradaはそうした素材をラグジュアリーの領域へ持ち込み、素材そのものの価値ではなく、そこにどのようなデザインを与えるかによって衣服の価値観を組み替えてきました。
2009年春夏のPRADA UOMOから展開された本品も、その姿勢がよく表れた一着。
ベースとなっているのは、フィールドジャケットやサファリジャケットを思わせるミリタリー由来のデザイン。レギュラーカラーの襟、両胸のフラップポケット、肩のエポレット、袖口のアジャスター、背面腰位置のアジャスターベルトなど、構成要素だけを拾えば非常にオーソドックスなものです。
しかし、そのすべてを薄手のナイロンで構築することによって、一般的なミリタリージャケットとはまったく異なる佇まいに仕上げています。
特に本品で注目したいのが、このナイロン生地そのものです。表面には極めて細かな織り目が均一に走っています。スポーツウェアで見られるような軽快で乾いたナイロンでも、強い光沢を前面に出したナイロンタフタでもありません。非常に緻密で滑らかな表面を持ちながら、光を完全に吸収するわけでもなく、角度によって鈍い光沢が静かに現れます。
その性質は、本品のオリーブカラーにも大きく影響しています。平面的な部分ではチャコールを含んだ深いオリーブに見えますが、袖や胸元のように生地が膨らんだ部分では光を拾い、わずかにブラウンを含んだような色へ変化する。一方で、皺の谷や生地が重なった部分では黒に近い色調まで沈み込みます。そのため、本品の色は単純な「オリーブ」と一言で表現できるものではありません。
身体の動きによって生地に皺が入り、その皺によって光の反射が細かく分断されることで、オリーブ、ブラウン、チャコールの間を行き来するような陰影が生まれています。特に広い面積を持つ背面を見ると、この素材が均一な光沢ではなく、柔らかな濃淡を作り出していることがよく分かります。
また、生地は薄手でありながら極端に柔らかいわけではなく、ナイロン特有の適度なハリを残しています。
仮に同じジャケットをコットンツイルやキャンバスで製作した場合、胸ポケットやエポレット、袖口のストラップといったミリタリー由来のディテールはより立体的に立ち上がり、全体として無骨な印象が強くなるはずです。対して本品では、それらを薄手のナイロン上に配置することで、ディテールそのものが生地へ馴染んでいます。
胸のフラップポケットには十分な大きさがありますが、厚みがほとんどないため身頃から大きく突出しません。肩のエポレットも同様で、本来であれば軍服らしさを強く印象付ける要素でありながら、同色・同素材でまとめることで輪郭だけが静かに残されています。
つまりPRADAは、ミリタリーウェアから形だけを引用したのではなく、その形が持つ重量感まで素材によって変化させています。
この関係性は腰ポケットにも表れています。
胸には外付けのフラップポケットを置きながら、腰には身頃の切り替えへ沿わせるようにハンドポケットを配置。正面から見た際にポケット口が必要以上に主張しないため、上下に複数のポケットを備えていても、いわゆる多機能なフィールドジャケットのような煩雑さを感じさせません。
さらにフロントを見ると、一見しただけでは分かりにくい本品の特徴が現れます。
表側にはクラシックなボタンフロントを採用しながら、その内側にはメタル製のダブルジップを配置。ボタンだけで閉じることも、内側のジップを使用することもできる二重構造で、下側からも開閉できるダブルジップによって着用時の裾の開き方を調整することができます。
背面も正面と同様、必要以上の装飾はありません。肩甲骨付近を横断する切り替えと、腰位置に設けられたアジャスターベルトによって構成されています。背面のベルトは複数のボタンによって調整でき、腰回りの分量を変えることが可能です。
前身頃では胸ポケットやエポレットによってミリタリージャケットとしての性格を示しながら、背面では大きな面積のナイロンを残す。
そのため後ろ姿では、生地そのものの光沢や皺、色の濃淡がより強く現れます。
ここまで見ていくと、本品に配置されたミリタリーディテールが単独で存在しているのではなく、すべて素材の選択と結びついていることが分かります。
エポレット、フラップポケット、袖口のストラップ、背面のアジャスター。
これらは本来、軍服やフィールドウェアの機能性を象徴するディテールです。しかし、それを無骨な天然繊維ではなく、薄く滑らかなナイロンへ置き換えることで、機能服の輪郭だけを残しながら、全体の印象を大きく変えています。
何かまったく新しい形を生み出すのではなく、すでに私たちが知っている衣服を取り上げ、素材やバランスを少しずらす。
すると、見慣れているはずのものが急に別のものに見えてくる。本品もまさにそのような一着です。
深いオリーブの色調、光を受けて静かに変化する高密度のナイロン、身体に沿うレーヨンの裏地、そしてボタンの内側に隠されたPRADA MILANOのダブルジップ。
一つひとつは実用性を背景に持つ要素でありながら、それらを組み直すことで、極めて都会的な一着へと変換されています。
素材とデザインを別々に考えるのではなく、ナイロンという素材だからこそミリタリーという古典的な形式がどのように違って見えるのか。
その関係性まで含めて設計された、2009年春夏のPRADA UOMOらしい一着です。
■size(cm)
表記サイズ54
肩幅50/身幅62/着丈76/袖丈63
■textile
Shell:Nylon100%
Lining:Rayon100%
■model
■condition
左袖のボタンが欠損しておりますが、とても綺麗な状態です。
その他は画像をご確認下さいませ。
発送まで4日程度頂戴いたします。
【必ずオンラインサイト下部の特定商取引法に基づく表記をお読みになってからご購入ください。】
※神経質な方のご購入はご遠慮ください。
※NCNR、ビンテージやアンティークにご理解のある方のみご購入下さい。
新商品やキャンペーンなどの最新情報をお届けいたします。