ARNYS Forestière ― Appointment Only
2022年春夏、Véronique Nichanianが手掛ける"HERMÈS(エルメス)"メンズコレクションより。
ヴィスコース、リネン、コットンを混紡した軽やかな生地で仕立てられた、ノーカラージャケットとラペル付きベストによるアンサンブルです。
一見するとシンプルな3ボタンジャケットのようにも映りますが、本作の魅力は、そのテーラードジャケットらしい姿を二つの衣服へ分解したような独特の構造にあります。
長袖側のジャケットには、一般的なテーラードジャケットに見られるラペルがありません。首元から胸元へ深く開いたVゾーンを形成するノーカラー仕様で、前身頃は非常に簡潔。対して共生地で作られたベストには、ノッチを設けた本格的なラペルが備わっています。
そして面白いのが、ジャケットとベストのどちらを外側にしても、このラペルを見せながら着用できること。ベストをジャケットの上から重ねれば、ラペル付きのベストが外側の輪郭となり、まるで袖付きのテーラードジャケットを着ているかのような姿になります。
実際、一枚目の写真にございます2022年春夏のパリコレクション(※1)ではこの着方が採用されており、長袖のノーカラージャケットを内側に、その上からラペル付きベストをレイヤードしています。
しかし、これだけが完成形ではありません。
順番を入れ替え、ベストを内側、ノーカラージャケットを外側に着ることも可能です。
ジャケットそのものにラペルが存在しないため、深く開いたVゾーンから内側に着たベストのラペルがそのまま現れます。
つまり、外側にベストを着れば「ベストのラペルがジャケットを作る」。
反対にジャケットを外側に着れば、「ジャケットの開きからベストのラペルを見せる」。
同じ二着でありながら、レイヤリングの順番を変えるだけで前身頃の奥行きや輪郭が変化します。
通常のスリーピースでは、ベストはジャケットの内側に収まることを前提として作られています。ジャケットにはジャケットのラペルがあり、ベストはそれを邪魔しないよう襟を省く。着用する順序まで含めて、ある程度完成された形式です。本作は、その関係を巧みに組み替えています。
ラペルというテーラードジャケットを象徴する要素を、あえて袖のないベスト側へ移動させる。
その結果、ジャケットとベストの主従関係がなくなり、どちらを外側にするかを着る人自身が選べるようになっています。
Véronique NichanianによるHERMÈSのメンズウェアらしい、既存の男性服の形を大きく崩すことなく、構造を少し変えることで新しい着方を生み出したデザインです。
仕立ても、この構造を成立させるために非常に軽快です。ジャケット、ベストともに重厚な芯地や肩パッドによって形を固定するのではなく、素材そのものの柔らかさを活かしたアンコンストラクテッドな作り。
特にジャケットはラペルや襟周りの構築物を持たないため、テーラードジャケットというよりもシャツジャケットに近い軽さがあります。
肩は自然に落ち、胸から裾へかけても身体を強く絞り込まないライン。この軽い仕立てだからこそ、二着を重ねても一般的なジャケット+ベストほど厚みが出ず、それぞれの生地が独立して動きます。
素材にはヴィスコース、リネン、コットンによる混紡生地を採用。表面を注意深く見ると、リネン特有の細かな節がありながら、ヴィスコースを含むことで硬さは抑えられ、柔らかな落ち感があります。
さらに特徴的なのが光の反射。マット一辺倒ではなく、生地の皺や角度によって鈍い艶が浮かび、平面で見たときと着用したときで表情が大きく変化します。
カラーについても単純なダークブラウンとは少し異なります。深いブラウンを基調としながら赤やプラムを僅かに含んだような色合いで、光の当たり方によって黒に近い深いブラウンから、赤紫を感じさせるブラウンまで変化します。
ディテールには、ワークジャケットを思わせる実用的な要素も見られます。
胸元には角を丸く取ったパッチポケット、腰にも大きなパッチポケットを配置。ドレスジャケットのようなフラップポケットや玉縁ではなく、生地の上へ直接ポケットを載せることで、アンコン仕立てとの相性の良い軽快な表情に仕上げています。
大ぶりなボタンも、この服の簡素な構成によく馴染んでいます。
そして二着を離してみると、それぞれが単体の洋服として成立していることにも気付かされます。
ノーカラージャケットだけなら、シャツやカットソーの上へ気軽に羽織る3ボタンジャケットとして。
ラペル付きベストだけなら、一般的なウェストコートとは明らかに異なる、「袖を取り除いたテーラードジャケット」のような一着として。
さらに二着を組み合わせれば、ジャケットの上にベスト、ベストの上にジャケットという二通りのレイヤリングを楽しむことができます。
服そのものを奇抜な形へ変えるのではなく、テーラリングを構成する要素と着用する順序を組み替えることで、新しい見え方を作る。
2022年春夏のVéronique NichanianによるHERMÈSを象徴するような、軽快さと遊びのあるアンサンブルです。
※1 出典 : 『FASHION PRESS | エルメス 2022年春夏コレクション』
■size(cm)
表記サイズ:48
—Jacket—
肩幅46/身幅53.5/着丈73/袖丈65
—Vest—
肩幅44/身幅53/着丈73.5
■textile
Shell:Viscose44% Linen36% Cotton20%
■model
176cm
■condition
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