ARNYS Forestière ― Appointment Only
パリ左岸を代表するメゾン、"ARNYS(アルニス)"による"SOREL"モデル。
1933年、パリ左岸のセーヴル通りに店を構えたARNYSは、芸術家や建築家、作家、知識人などを顧客に持ち、右岸の伝統的なメゾンとは異なる独自の男性服を築き上げてきました。英国的なテーラリングとも、後のイタリア的な軽快さとも異なる、クラシックでありながらどこか自由な佇まいは、ARNYSの大きな特徴です。
そのARNYSを語るうえで欠かすことのできない"Forestière(フォレスティエール)"は、森林に携わる人々の衣服、いわゆるゲームキーパーのジャケットから着想を得たとされるモデル。一般的なテーラードジャケットからラペルを取り払い、スタンドカラーと複数のパッチポケットを組み合わせることで、テーラリングの品格とワークウェアの実用性を同居させています。建築家ル・コルビュジエが愛用したことでも知られ、現在ではARNYSというメゾンそのものを象徴する存在となっています。
今回ご紹介する"SOREL"は、そのForestièreと共通する要素を持ちながら、各部をよりスポーティーな方向へ発展させた派生的なモデル。一見するとスタンドカラーや縦に並ぶボタン、複数のアウトポケットなどForestièreに通じる輪郭を持っていますが、細部を見ていくと単なる仕様違いではなく、異なる性格を与えるために随所へ変更が加えられていることが分かります。
まず特徴的なのが、フロントに連続して並べられた7つのボタン。Forestièreにも見られる首元のストラップ状の留めを残しながら、その下へ小ぶりなボタンを細かな間隔で配置しています。縦方向へ規則的に並ぶボタンによってフロントラインが強調され、一般的なジャケットとは明らかに異なる表情を形成しています。
ボタンにはダークカラーのベースに装飾的なメタルパーツを組み合わせたものを使用。深いブルーの生地に自然に馴染みながら、光を受けた際には中央のメタルが僅かに浮かび上がります。
そして、SORELをForestièreとは異なるものとして印象付けている大きな要素が、ポケットのデザインです。腰位置には左右に大型のパッチポケットを配置。丸みを帯びた下端を持つ形状はForestièreにも通じる実用的な構成ですが、より複雑な構造をとっています。左胸にはフラップ付きのアウトポケットを設け、そのポケット本体には縦方向のプリーツを配置。単純なパッチポケットではなく、生地に立体的な余裕を持たせることで、ハンティングやフィールドジャケットに見られるような機能服的な表情が生まれています。Forestièreの端正なポケット構成に対して、SORELではこうした立体的なディテールを加えることで、よりスポーツジャケットとしての性格が明確になっています。
一方、素材にはARNYSの春夏物を代表する組み合わせの一つであるシルク×リネンを使用。色はブルーとネイビーの中間に位置するような、僅かに褪せた深いブルー。均一な紺色ではなく、光の当たり方によって青みが強く現れたり、影では落ち着いたネイビーへ沈んだりと、豊かな濃淡を見せます。リネン特有の節や自然な皺に、シルクによる控えめな光沢が重なることで、カジュアルなリネンジャケットとは明確に異なる品があります。
この生地だからこそ、7つのボタンや立体的な胸ポケットといった要素を数多く盛り込みながらも、全体が重たく見えません。むしろ素材の軽さと柔らかな発色によって、それぞれのディテールが自然に馴染んでいます。
さらにSORELらしさが顕著に現れるのが、後身頃です。背面中央には深く取られたインバーテッドプリーツの構造が設けられ、その下部には横方向のタブを配置。一般的なテーラードジャケットの平面的な背面とは異なり、後ろ姿そのものに機能服を思わせる構造が与えられています。
この背面のプリーツは視覚的なアクセントになるだけでなく、Forestièreとは異なるスポーティーな印象を決定付ける重要なディテールです。フロントだけを見ればARNYSらしい端正なスタンドカラージャケットでありながら、後ろへ回ると一転してフィールドウェアを思わせる構造が現れる。その前後の表情の違いがSORELの面白さでしょう。
袖の仕様も特徴的です。袖口は一般的なジャケットのようにボタンを並べるのではなく、幅を持たせたカフス状の構造。折り返して着用することもでき、シャツのような軽快さを感じさせます。
つまりSORELは、Forestièreを単純にスポーティーにしただけのジャケットではありません。スタンドカラーやアウトポケットというForestièreの基本的な要素を残しながら、7ボタンのフロント、プリーツを伴うフラップ付き胸ポケット、特徴的なバックディテール、そしてカフス状の袖口と、それぞれ異なる機能服の要素を組み合わせることで、独立した一着として成立しています。
そして、この個体でもう一つ見逃せないのが内部の仕立てです。春夏向けのシルク×リネンという表地の性格を活かすため、裏側は総裏ではなく背抜きの仕様。そこに使用されているのが、ホワイトをベースにブルーとグリーンのラインが交差するチェック柄のリネンのシャツ生地です。
表側の深いブルーとは対照的な明るいチェック柄が、ジャケットを開いた瞬間に大きく現れます。単なる無地の裏地を取り付けるのではなく、まるで一枚のシャツを内部へ組み込んだような仕立ては、春夏物のARNYSで時折見られる非常に魅力的な仕様です。特にこのチェックは、ブルーのラインが表地の色を拾いながら、そこへ鮮やかなグリーンを加えた配色。表から見た際にはほぼブルー一色にまとめられているため、脱いだ時やフロントを開いた時に初めてチェックが現れる、その落差が非常に印象的です。
さらに重要なのは、裏地そのものにもリネンが用いられていること。表地をシルク×リネンとしながら、裏側を一般的な滑りの良い裏地で覆ってしまうのではなく、リネンのシャツ生地を背抜きで使用することで、春夏用ジャケットとしての軽快さを損なわない仕立てとなっています。裏地を省略するだけでは内部の縫製が露出してしまいますが、この個体ではチェック柄の生地を見返しや内部の処理にも用いることで、軽量化と美しい仕立てを両立。実用上ほとんど人目に触れない場所にまで色柄を持ち込むところにも、ARNYSらしい遊びが感じられます。
そして、表側に戻るとSORELの魅力はそのシルエットにもあります。肩を過度に構築するテーラードジャケットではなく、シルク×リネンの柔らかな生地を活かした自然な落ち感。スタンドカラーによって首元には端正さを残しながら、身頃には適度な余裕があり、シャツや薄手のニットの上から軽く羽織ることのできるバランスです。
フロントをすべて留めれば7つのボタンが縦のラインを作り、首元まで閉じた端正な表情に。反対に上部を開き、袖口を折り返せば、シルク×リネンの柔らかな皺とともにぐっと軽快な印象になります。
Forestièreがテーラードとワークウェアの中間に位置するARNYSの代表作だとすれば、SORELはそこからさらにスポーツ、フィールドウェアの方向へ踏み込んだモデルとして見ることのできる一着です。
Forestièreと共通するスタンドカラーを起点としながら、ボタンの数を増やし、胸ポケットを立体的に作り替え、後身頃には大胆なプリーツとタブを設け、袖口にも独自の構造を与える。
それでいて、全体を深いブルーのシルク×リネンで統一することで、ディテールの多さを過剰に感じさせない。このバランスこそ、ARNYSらしいところです。
表から見た時の端正なブルーの佇まい、後ろ姿に現れるスポーティーなディテール、そしてジャケットを開いた時に初めて現れるブルー×グリーンのチェックリネン。
Forestièreの系譜を感じさせながら、それとは異なる方向へ展開された"SOREL"。
ARNYSの代表作だけではなく、そこから派生した多彩なモデルまで含めてメゾンの服作りを楽しんでいただける、非常に興味深い一着です。
■size(cm)
表記サイズ:56
肩幅50.5/身幅62/着丈76.5/袖丈67.5
■textile
Shell:Silk55% Linen45%
Lining:Linen100%
■model
■condition
綺麗な状態です。
その他は画像をご確認下さいませ。
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