ARNYS Forestière ― Appointment Only
1990年代頃の"SHIRIN GUILD(シリン・ギルド)"より、チャコールカラーのストライプウールを用いたジャケット。
一見すると端正なストライプウールのジャケットですが、その構造を追っていくと、一般的なテーラリングとはまったく異なる方法で服が組み立てられていることが分かります。
SHIRIN GUILDは、イランに生まれ、1970年代にイギリスへ移住したShirin Guildによって設立されたロンドンのブランド。西洋的なテーラリングの方法論をそのまま踏襲するのではなく、中東やアジアの民族衣装に見られる身体と布との距離感を取り入れながら、非常に独自性の高い衣服を制作してきました。特に1980年代後半から90年代にかけて発表された作品には、身体を細く整えて見せるためのダーツや複雑な立体裁断に頼るのではなく、比較的大きな布を身体の周囲に配置し、その落ち方や重なりによって輪郭を作るものが多く見られます。
今回の一着も、その特徴がよく表れています。
まず目に入るのが、首元の独特な構造。通常のジャケットに見られるテーラードカラーでも、単純なスタンドカラーでもありません。首の後ろから左右へ続く幅のある襟を設けながら、フロントでは片側を斜めに走らせ、もう一方へ重ねるようにしてトップボタンで留める構造。襟そのものが前合わせの一部として機能しています。
着物や東洋の衣服に見られる打ち合わせを連想させる部分もありますが、それをそのまま引用したような造形ではありません。トップボタンを留めることで襟元に斜めの線が一本生まれ、その下にはストライプが垂直方向へ落ちていく。この「斜め」と「縦」の対比によって、装飾を加えることなくフロントに強い特徴を作っています。
そして身頃はかなりゆったりとした設計です。
肩を大きく落としたドロップショルダーに、身幅にも十分な分量を持たせています。
一般的なオーバーサイズジャケットであれば、単純に肩幅と身幅を広げたようなものも少なくありませんが、この服では布の余り方そのものがシルエットを形成しています。着用すると肩線は身体の外側へ落ち、その先から袖が真っ直ぐ下へ伸びます。脇にも余裕があり、腕を動かした際にも身頃が身体へ張り付かず、布が一枚遅れてついてくるような独特の動きがあります。
さらに面白いのがポケットです。左右対称に腰ポケットを配置する一般的なジャケットとは異なり、裾周辺に大きな布の面を加えるようなポケット構造が採用されています。特にフロントから見た際、ポケットが単なる収納として身頃の中へ収まっていません。身頃の裾線を部分的に延長するようにポケットが配置され、その四角い面がジャケットの輪郭そのものに介入しています。ポケット口も極めて簡潔で、フラップや装飾的なステッチを加えず、布の切り替えと重なりによって存在を見せる設計。
そのため、正面から見るとストライプの規則的な縦線に対して、裾部分だけ大きな無地に近い面が現れます。この規則性と不規則性の組み合わせも非常にSHIRIN GUILDらしいところです。
さらに、このジャケットの造形を決定づけているのが後身頃。背中を細く見せるためのセンターベントやサイドベンツではなく、後身頃そのものにかなり大きな分量を持たせ、それをプリーツ状に処理しています。特に背面中央付近では、生地を深く畳み込むことで縦方向の大きな折りが形成されています。
このプリーツは装飾として表面に付け加えられたものではなく、背中の運動量を確保すると同時に、服そのもののボリュームを調整するための構造。静止している状態では比較的すっきりと閉じていますが、腕を前へ動かしたり身体を捻ったりすると折り畳まれていた生地が開き、背中側に余裕が生まれます。つまり、身体に沿わせることで可動域を作るのではなく、最初から布を余らせ、その布を「畳む」ことでシルエットを成立させているわけです。。
ストライプの入り方にも注目していただきたいところ。
チャコールをベースとした非常に落ち着いた配色で、チョークストライプが一定の間隔で走ります。
ビジネススーツにも使われるような馴染みのある柄でありながら、SHIRIN GUILDのパターンに落とし込まれることで、その印象は大きく変化しています。
また、裏地を大きく用いた重厚なテーラードジャケットではなく、生地そのものの軽さと落ち感を生かした仕立ても特徴です。芯地によって胸を作り、肩を持ち上げるのではなく、着る人の肩から自然に布を落とす。そのためウールのジャケットでありながら堅苦しさはなく、シャツジャケットや軽い羽織物に近い感覚で着用できます。
シャツの上からはもちろん、薄手のニットやカットソーに合わせても成立し、襟元の構造があるためインナーが簡素でもスタイリングが完成します。
チャコールのストライプウールという極めてクラシックな素材を使用しながら、特殊な襟、ドロップショルダー、大胆なポケット配置、そして後身頃に畳み込まれた深いプリーツ。
1990年代のSHIRIN GUILDならではの、布と身体との関係性が非常によく表れた一着です。
■size(cm)
表記サイズ:M
肩幅66/身幅75/着丈66.5/袖丈51
■textile
Shell:Wool
■model
176cm
■condition
綺麗な状態です。
その他は画像をご確認下さいませ。
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