ARNYS Forestière ― Appointment Only
SOLD OUT
1837年、Thierry Hermèsがパリに馬具工房を開いたことから始まった"HERMÈS(エルメス)"。
馬車文化が隆盛を極めていた19世紀のパリにおいて、当初は馬具を専門とする職人のメゾンとして歩みを始め、鞍やハーネスをはじめとする高度な技術を必要とする製品によって評価を確立していきました。時代とともに移動手段が馬車から自動車へと変化するなかでも、その技術と美意識を失うことなく、バッグ、レザーグッズ、ウェア、ジュエリー、時計、そしてシルクへと領域を広げていったHERMÈS。
その長い歴史を語るうえで、現在のメゾンを象徴するプロダクトのひとつとなっているのが"Carré(カレ)"です。
フランス語で「正方形」を意味するCarré。
HERMÈSにおけるその歴史は1937年、"Jeu des omnibus et dames blanches"が発表されたことから始まります。HERMÈS自身もこれをメゾン初のシルクスカーフとして記録しており、Robert Dumasによって生み出された最初の一枚から、Carréは現在までメゾンを代表する存在として作り続けられています。
一辺約90cmの正方形という限られた空間に、馬術、自然、神話、航海、建築、旅、各地の文化などを題材としたひとつの世界を構築することがCarréの大きな特徴です。単にブランドを象徴する柄を反復するのではなく、それぞれのCarréに作品名が与えられ、異なるアーティストがひとつの画面を構成する。そのため一枚のスカーフでありながら、グラフィック作品や挿絵、装飾芸術に近い性格を備えています。そしてHERMÈSがCarréの題材として繰り返し向き合ってきたものこそ、メゾンの原点である「馬」と、それを取り巻く文化です。
こちらは、Françoise de La Perrièreがデザインした名作、"Les Voitures à Transformation(折り畳み式幌の馬車)"を用いたCarré 90。
オリジナルのデザインが発表されたのは1965年。半世紀以上を経た現在もメゾンのアーカイブを代表する作品として扱われており、HERMÈS自身が"Carrés de toujours"として再びCarré 90で展開するほど、長く受け継がれている図案です。
題材となっているのは、さまざまな構造を持つ馬車。画面の外周には幌を備えた馬車、軽快な二輪馬車、複雑な車輪とサスペンションを持つものなど、それぞれ異なる形状の馬車が精密な線描によって配置されています。こうした小型の幌付き馬車は女性にも使用され、籐の編み込みによって装飾されたものも存在し、天候の良い日に街や森へ出掛けるための優雅な乗り物だったと説明されています。作品そのものも「旅」と「移動」を題材としたものとして位置付けられています。
本個体を見ると、その特徴が非常に分かりやすく表れています。
馬車そのものだけを並べるのではなく、車輪、幌、ランタン、座席、籐張りのボディなどを細部まで描き分けることで、一台ごとの構造そのものを鑑賞できるような構成。
中でも印象的なのが中央部分です。ライトブルーを背景として細かな籐編みを思わせる巨大な楕円形のモチーフを置き、その中心には"LES VOITURES A TRANSFORMATION"の文字を配したメダリオン。
その上下左右を馬車のボディや幌が取り囲み、さらに二本の鞭が交差することで、外周に並べられた馬車を中央へと収束させています。馬車を単なる乗り物として描くのではなく、その構造を一度分解し、車輪、車体、幌、籐、鞭といった造形要素へ置き換えたうえで、再び一枚の正方形の中へ秩序立てて配置する。その緻密さこそ、このCarréの見所です。
右下には"LA PERRIERE"のサインも確認でき、Françoise de La Perrièreによる作品であることが図案そのものからも読み取れます。
また、本個体を魅力的にしているのがカラーリング。外周には発色の良いイエローを大きく取り、内側にはややグリーンを含んだ淡いベージュ、ライトブルー、グレー、ブラウン、オレンジなどを組み合わせています。非常に細かな描写を持つ作品ですが、彩度を抑えた中間色を中心に構成されているため、全体としては柔らかく品のある印象。そこへ外周の鮮やかなイエローが額縁のように作用しています。
広げた状態では馬車の博物図譜のような端正な構図が現れる一方、首元へ巻けば馬車という具体的なモチーフは断片化され、イエロー、ブルー、ブラウン、グレーの幾何学的な色面へと変化します。
この「広げたとき」と「身に着けたとき」で見え方が変わることもCarréの面白さです。
完成された一枚絵でありながら、折り、巻き、結ぶことで構図を崩すことが前提となっている。
中央の籐編み部分を大きく見せるのか、イエローの縁を主体にするのか、ブルーの車輪をアクセントとして覗かせるのか。その日の服装によって、一枚の中から使用する色や図柄を選ぶことができます。
素材は100% SILK。HERMÈSのCarré 90を象徴するシルクツイルが用いられ、細かな綾目によって適度な張りと美しい光沢が生まれています。
さらに縁にはCarréを象徴するロール状の仕上げが施されています。
このCarréが特に興味深いのは、HERMÈSの歴史と図案の題材がほぼ直接的につながっていることです。馬具工房として始まったHERMÈSにとって、馬車は単なるクラシカルな装飾モチーフではありません。馬を制御するためのハーネスや鞍、馬車を構成する金具や革、そしてそれらを製作する職人技術こそ、メゾンが誕生した時代の中心にあったもの。"Les Voitures à Transformation"は、その原点である馬車文化をFrançoise de La Perrièreが精密なグラフィックへと変換した作品と見ることができます。
1937年の最初のCarréから現在に至るまで、約90cm四方というフォーマットを大きく変えることなく、その内部に無数の物語を描いてきたHERMÈS。本作は、その歴史の中でも特にメゾンの原点との結び付きが強い一枚です。
鮮やかなイエローの縁、淡いベージュとブルーによる柔らかな配色、精密に描かれたさまざまな馬車、そして中央に広がる籐編みを思わせる幾何学模様。
身に着ければ上質なシルクスカーフとして成立し、広げれば一枚のグラフィック作品として眺めることができる。
HERMÈSというメゾンが馬具から始まった歴史と、1937年以来続いてきたCarréという文化。
その双方を一枚の中で楽しむことのできる、非常にHERMÈSらしいヴィンテージCarréです。
■size(cm)
表記サイズ:90
■textile
Shell:Silk100%
■model
■condition
綺麗な状態です。
その他は画像をご確認下さいませ。
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