ARNYS Forestière ― Appointment Only
1924年創業の"Loro Piana(ロロ・ピアーナ)"は、現在では高級衣料品ブランドとして広く知られていますが、その出発点は服地メーカーです。創業以来、カシミヤやヴィキューナをはじめとする天然繊維の調達と開発を続け、世界中のサルトリアや高級メゾンへ生地を供給してきました。
そのためロロ・ピアーナの製品を見る際には、まずデザインではなく素材に目を向ける必要があります。
どの原料を使ったのか。
どのような織りで構成されているのか。
そして、その生地をどのように衣服へ落とし込んだのか。
本品もまさにその視点から見るべき一着です。
90年代後半から2000年代初頭頃に製造された"STORM SYSTEM®︎(ストーム・システム)"搭載のハーフコート。一見すると非常に簡潔なコートですが、その簡潔さこそがこの個体の特徴と言えるでしょう。
まず目を引くのは表地に採用されたSTORM SYSTEM®︎対応のSUPER110'Sウールです。
ロロ・ピアーナの服地を語る際、しばしばSUPER150'SやSUPER170'Sといった数字の大きな生地が注目されます。
しかしコート用途として考えた場合、細番手になればなるほど良いとは限りません。
繊維が細くなるほど柔らかさや光沢は増しますが、その反面、生地としての耐久性は低下します。
そこで本品に採用されているSUPER110'Sは非常に理にかなった選択です。
十分な光沢とドレープを持ちながら、コートとして必要な強度も確保できる。さらに織り上げられた生地表面は毛羽立ちが少なく、光を均一に受けるため、生地全体に自然な艶が生まれています。
特に本品のようなグレージュ系の色味では、その特徴が顕著に現れます。
ベージュほど軽くなく、グレーほど硬くない。
ロロ・ピアーナが得意とする中間色の使い方によって、生地の陰影やドレープがより分かりやすく表現されています。
さらにこの生地にはSTORM SYSTEM®︎加工が施されています。
STORM SYSTEM®︎は1990年代にロロ・ピアーナが開発した機能技術であり、天然素材の風合いを損なうことなく、防風性と撥水性を付与することを目的としています。
興味深いのは、この技術がナイロンやポリエステルのような機能素材を前提としていないことです。
あくまでも主役は天然素材。その天然素材を実際の生活環境に適応させるための補助技術として存在しています。
そのため着用時に感じる質感は一般的な機能服とは大きく異なります。
硬さや人工的な張り感ではなく、ウール本来の柔らかさが残されています。
この生地を活かすために採用された設計も非常に合理的です。
フロントは比翼仕立て。ボタンが隠れる構造となっています。
比翼仕立てが採用される理由は明確です。
ボタンという装飾的要素を視覚的に減らし、生地そのものを主役にするためです。
特に本品のような生地では、ドレープや色の深みが大きな魅力となります。
そのためフロントにボタンを並べるよりも、面として生地を見せた方が完成度は高くなります。
また、防風性という観点から見ても理にかなっています。
前立てが二重構造となることで冷気の侵入を抑え、STORM SYSTEM®︎の性能をより効果的に機能させています。
裏側を見ると、このコートの製作コストがどこへ向けられていたのかがよく分かります。
全面に採用されたピュアカシミヤライニングです。
一般的なコートであればレーヨンやキュプラが使われる部分ですが、本品では身頃全体をカシミヤで構成しています。
これは単なる高級化のための仕様ではありません。
STORM SYSTEM®︎によって防風性を確保した表地と組み合わせることで、外気を遮断しながら内部の保温性を高める役割を担っています。
特に興味深いのはポケット内部です。
通常であればポケット袋布にはコットンや化学繊維を用いることがほとんどですが、本品ではポケット内部までカシミヤが使用されています。手を入れる頻度を考えれば、実際に着用者が最も素材の違いを感じる部分と言っても過言ではありません。
目に見える場所ではなく、触れる場所へコストを掛けている点が特徴的です。
シルエットについても同様です。
肩周りには過度な構築性を持たせず、生地の重みを活かした設計となっています。
その結果、肩から裾へ向かって自然なドレープが生まれます。
特にSUPER110'Sのような柔らかな梳毛生地では、芯地やパッドによる構築よりも、生地そのものの落ち感を活かした方が素材の良さが現れます。
このハーフコート丈も重要なポイントです。
ロングコートほど重量が分散せず、ジャケットほど短くない。
その中間に位置することで、生地の落ち方が最も綺麗に見える長さに設定されています。
さらに着用時の可動域も確保しやすく、コートとしての機能性とドレープ表現の両立が可能になります。
細部の仕様も一貫しています。
ポケット位置。
ボタン配置。
袖口の処理。
いずれも特別な装飾を目的としたものではありません。
全てが生地の魅力を損なわず、機能性を確保するための設計です。
そのため視線は自然と素材へ向かいます。
このコートの魅力は特殊なデザインにあるのではありません。
SUPER110'Sウール。
STORM SYSTEM。
ピュアカシミヤライニング。
それぞれの素材や技術が持つ特性を理解した上で、それらを最大限活かすために構築されている点にあります。
90年代後半から2000年代にかけて、多くのブランドが機能性を求めて化学繊維へ向かう中、ロロ・ピアーナは天然素材を軸に同じ課題へ取り組みました。
その結果として生まれたのが本品のようなプロダクトです。
派手な意匠や強い主張はありません。
しかし生地、構造、機能の関係を一つずつ追っていくと、このコートが極めて高い水準で設計されていることが理解できます。
ロロ・ピアーナというメーカーが長年培ってきた服地開発の技術と、それを衣服へ落とし込む設計力が凝縮された一着です。
■size(cm)
表記サイズ:56
肩幅54/身幅65/着丈90/袖丈68
■textile
Shell:Virgin Wool 100%
Lining:Cashmere 100%
■model
■condition
とても綺麗な状態です。
その他は画像をご確認下さいませ。
発送まで4日程度頂戴いたします。
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