ARNYS Forestière ― Appointment Only
1933年、セーヌ左岸セーヴル通り14番地。
芸術家や知識人が集う文化の中心地にてジャンケル・グリムベールによって創業した"ARNYS(アルニス)"は、フランス紳士服史の中でも異彩を放つ存在として知られています。
戦後まもなく、パリの知識階級・建築家・文学者・音楽家といった"文化を纏う人々"のために仕立てを提供したことから、その名は瞬く間に広がりました。
華美さよりも、思考と職能を支えるための機能性と気品を重んじたアルニスの服は、早くから「知識人の制服」と称されたほどです。
ブランドの象徴とされるのが"Forestière(フォレスティエール)"と呼ばれるジャケット。
建築家ル・コルビュジエの依頼を受け、創造活動に必要な可動域・収納性・機能性を備えたジャケットとして誕生したこのモデルは、アルニスの精神を最も色濃く表す名作。
独自のシルエット、胸から裾へ流れるドレープ、特徴的な大容量ポケット、柔らかいアンコン仕立て──クラシックでもミリタリーでもなく、まさに「アルニスにしか存在しない服」。
洋服のカテゴリーを超え、文化的アイコンとして語り継がれる理由がここにあります。
また、アルニスのもうひとつの強みは フランス的エレガンスと実用性の両立にあります。
カシミヤ、シルク、リネン、ヘビーウールなど厳選されたテキスタイルは、いずれも贅沢でありながら日常の動きを邪魔しない自然な落ち感と柔軟性を備えています。
ムッシュたちの生活のために考え抜かれたパターンは、構築的でありながら肩肘を張らず、どこか文学的な静けさを纏うシルエットを生み出します。
特筆すべきは、アルニスが長く採用してきた伝統的ハンドテーラリング。
前身頃の柔らかな据わり、手縫いによる細かな補強、ポケットの美しいロール、カマ底の驚くべき可動域。
これらすべては、服を"着るための装置"として真摯に捉える同ブランドの哲学から生まれています。決して目立つ装飾を施さず、細部に宿る職人技だけで品格を示す──その審美眼がアルニス最大の魅力と言えるでしょう。
さらに、顧客の多くが知識人・建築家・評論家・演奏家など、いわゆる"文化人層"であったこともブランドを特別な存在へと導きました。
華やかな社交界ではなく、思索の場・アトリエ・書斎という静かな空間のために生まれた服。
それゆえにアルニスのプロダクトは、一見すると控えめでありながら、纏った瞬間に唯一無二の知性と深みを放ちます。
2012年、ブランドは歴史的役割を終え惜しまれつつ幕を下ろしましたが、フォレスティエールをはじめとする名作アーカイブは、現在も世界中の愛好家たちに収集され続けています。
単なるヴィンテージを超え、"フランス左岸文化の遺産"として扱われるほどです。
アルニスとは、流行の対極にある存在。
文化人の思考を支え、日常に寄り添いながら、その人の人生と共に熟成していく服──。
それが、今日まで語り継がれる 唯一無二のフレンチ・テーラリング "ARNYS"の本質でございます。
本品は、ジャケットでもなく、コートでもなく、いわば"重ね着のための外衣"。
その曖昧な立ち位置こそが、このプロダクトの本質を物語っています。
ベースとなるのは、乗馬用衣服の構造を参照したライディングベスト。
腕を解放し、胴体を確実に覆う設計は、長時間の着用や動作を前提とした合理性に基づいています。
アルニスはここに、都市生活のための解釈を重ね、単なるスポーツウェアやカントリーウェアへと収束させることなく、知的な日常着として昇華させました。
生地にはウールツイードを使用。
細かな織り柄が奥行きを生む表情豊かな素材でありながら、過度な起毛感は抑えられ、室内外を行き来する現代的な生活にも適応します。
色調はオリーブを基調としたニュアンスカラー。
自然の中に溶け込む穏やかさと、都市の景色にも違和感なく馴染む静けさを併せ持ち、まさにアルニスらしい選択と言えるでしょう。
フロントは比翼に近い簡潔な構成で、ボタンや縫製の存在感を極力抑えています。
一方で、前面に配された大ぶりのフラップポケットは、アルニスらしい実用性の象徴。
書籍や手帳、小物類を無理なく収めることができ、単なるデザイン要素ではなく、明確な目的を持った配置であることが伝わってきます。
背面にかけての分量感も秀逸です。
身頃は直線的でありながら、着用時には身体の動きに応じて自然なドレープが生まれ、硬さを感じさせません。
肩線を持たないベスト型であることにより、インナーにテーラードジャケットやニットを合わせた際も可動域が損なわれず、重ね着そのものが快適な行為として成立します。
裏地には、アルニスらしい配色センスが光るシルクライニングを採用。
外側の静謐な佇まいに対し、内側にのみ宿る色彩の遊びは、着る人だけが知る美意識です。
こうした内外のコントラストもまた、同ブランドが長く愛されてきた理由のひとつでしょう。
ジャケットやコートの上から羽織ることもでき、また時にはその内側に忍ばせることもできる──レイヤードの位置を固定しない設計こそが、本作の最大の特徴です。
季節や環境、着る人の思考に応じて役割を変えながら、装い全体の重心を静かに整えてくれます。
用途から生まれた構造に、文化的洗練を重ねていく。
主役にも脇役にもなり得るこの柔軟さこそ、フレンチ・テーラリングの良心であり、アルニスというブランドの核心。
重ね着の中でこそ真価を発揮し、日常の思考や動作に自然と溶け込んでいく一着。
アルニスが築いてきた衣服哲学を、最も実直なかたちで体現したベストコートと言えるでしょう。
■size(cm)
表記サイズ:56
肩幅52.5/身幅66.5/着丈107.5
■textile
Shell:Wool100%
Lining①:Silk100%
Lining②:Cashmere100%
Details:Lamb-Leather100%
■model
■condition
とても綺麗な状態です。
その他は画像をご確認下さいませ。
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