イタリアという国には、太陽と影、信仰と情熱、禁欲と欲望といった、相反する要素が絶えず共鳴し合う。
ドメニコ・ドルチェとステファノ・ガッバーナ、この二人のデザイナーの出会い——
その反発と融合のドラマは、単なる服を超えた"生き方の美学"として世界を魅了することになります。

ブランドの始まりは、1985年のミラノ。
控えめで、そして時に過剰に感情的なイタリアの魂を、ドレスという形で立ち上げたのが"Dolce & Gabbana(ドルチェ&ガッバーナ)"でした。
初期のコレクションで注目を集めたのは、決して贅沢な素材や奇抜な仕掛けではなく、シチリアの空気を感じさせる素朴な魅力。
そして何よりも"女性を女性としてとして、美しく、強く、官能的に見せる"という情熱的な哲学でした。

ドルチェ氏はシチリア出身。
職人の家系に育ち、テーラリングに対する鋭い感覚を幼い頃から身に付けていました。
一方のガッバーナ氏は、北イタリアのミラノの生まれ。
グラフィックと視覚的表現に長けた、都会的センスの持ち主。
南と北、伝統と前衛——
相反するかの様に見える両者の融合は、同ブランドをイタリアンモードの帝王へと導いてゆきます。

90年代、ドルチェ＆ガッバーナは一気にファッション界のスターダムを駆け上がりました。
マドンナが彼らのブラジャー付きドレスを纏い、スキャンダラスに登場した瞬間、世界はこのブランドの名を心に刻んだことでしょう。
黒いレース、コルセット、スラッシュスカート、タイトなスーツ。
そして、露骨なまでの“肉体賛美”と“ロマンティシズム”の交差。

彼らの服には常に"物語"がありました。
信仰と家族、性と罪、祝祭と哀愁。
ときに宗教画のように、ときに映画の一場面のように、着る者の輪郭をドラマティックに描き出す。
フェデリコ・フェリーニやルキノ・ヴィスコンティが描いたイタリア的情景が、まるで服の中に封じ込められているかのように。

今回ご紹介する一着は、そんな黄金期のドルチェ＆ガッバーナを体現する一着。
テーラードというクラシックな形式に注ぎ込まれたのは、ウールとナイロンの異素材を織り交ぜたテキスタイルと、常識を打ち破る大胆なパターンと装飾性。
柔と剛、伝統と革新を同時に纏う構成となっています。
ストイックな構築美の中に、ブランド特有の"肉感"と"冷たさ"が宿っており、ただのビジネスウェアとは一線を画す官能的な緊張感を放っています。

80年代を彷彿とさせる非常に太いラペル。
Vゾーンはセクシャルな雰囲気纏うほどに深く切り込まれ、くびれのあるウエストラインは肉体美を追求せんとする意図が垣間見えるシルエット。
胸元のポケットはフラップの仕様と、かなり意匠性もございまして、その躯体に施されたデザインの要素それぞれが静かに、そして見事な融合を果たし、唯一無二の調和を見せています。
それらは奇抜さを先行しただけの小手先にあらず、非常に精緻な柄合わせから読み取れます通り、豊かな余韻を孕んだ気品溢れる遊戯性を伴う一着であること、ご理解いただけるのでは無いでしょうか。

ドルチェ＆ガッバーナの服は、常に"着る人の哲学"を問います。
自分が何者で、何を信じ、何に惹かれ、そして何に抗えないのか。
それを知るための、ある種の装置。
90年代のこのジャケットに袖を通したとき、あなたの中に眠っていた"物語"が目を覚ますことでしょう。
それは官能か、反抗か、あるいは祈りか——
その答えは、着る人自身の中にあります。

■size(cm)
表記サイズ:52
肩幅47/身幅56/着丈80/袖丈70.5

■textile
Shell:Wool90% × Nylon10%

■model
176cm

■condition
目立った傷等なくグッドコンディションです。
その他は画像をご確認下さいませ。

発送まで4日程度頂戴いたします。

【必ずオンラインサイト下部の特定商取引法に基づく表記をお読みになってからご購入ください。】
※神経質な方のご購入はご遠慮ください。
※NCNR、ビンテージやアンティークにご理解のある方のみご購入下さい。