ARNYS Forestière ― Appointment Only
1973年、パリ左岸のRue RacineでPatric Hollingtonによってスタートした"hollington(ホリントン)"。
アイルランドにルーツを持つPatric Hollingtonは1950年代末にパリへ移り住み、ジャーナリストやテキスタイル関連の仕事などを経て、デザイナーMichel Schreiberとともにメンズウェアへ携わるようになります。そして1973年、自身の名を冠したHollingtonを立ち上げました。
当時Patric Hollingtonが抱いていたのは、西洋の男性服があまりにもスーツとネクタイという形式に縛られていることへの疑問でした。
しかしHollingtonが目指したのは、それらを完全に否定したカジュアルウェアではありません。仕立ての良さや男性服としての品格を残しながら、より自由で、実際の生活の中で機能する服へと置き換えていくこと。その思想から生まれたのが、Hollingtonを象徴するスタンドカラーやカラーレスに近いジャケット、そしてワークウェアの構造を取り入れた独特なメンズウェアでした。
現在に至るまでブランド自身も、そのスタイルを「ボヘミアンな感覚、建築的な厳格さ、ワークウェアの実用性」の組み合わせとして説明しています。またPatric Hollingtonが「自分の服は生地、それ以外の何ものでもない」という趣旨の言葉を好んでいたように、天然素材の質感を服そのものの個性として扱ってきたことも、このブランドを理解するうえで重要です。
今回ご紹介するのは、1980年代頃のMade in Franceによる一着。
まず目を引くのが、ブラウンのコットンコーデュロイです。
素材表記はCotton 100%。一般的な細畝のコーデュロイとは異なり、一本一本の畝が明確に立ち上がった比較的太さのある生地を使用しています。
さらに本品の場合、単純な均一色のブラウンではありません。濃い焦茶をベースとしながら、畝の頂点には明るいキャメルから黄褐色のような色が現れ、縦方向に細かな濃淡が連続しています。コーデュロイ特有の起毛と経年による表情が重なることで、見る位置や光の角度によって色調が細かく変化します。
Hollingtonが素材に求めてきた「手触り」や「表情」を非常に分かりやすく感じられるテキスタイルです。
デザインの中心となるのは、小振りなスタンドカラー。高さを抑えた襟が首元を囲み、最上部までボタンで閉じられる仕様になっています。通常のテーラードジャケットのようなラペルは存在せず、それによって首元から裾までほぼ一本の線としてフロントが落ちていきます。
前身頃には5つのボタン。左胸に一つ、腰位置に左右一つずつ、大型のパッチポケットを配置しています。この三つのパッチポケットという構成も非常にhollingtonらしいものです。
装飾としてポケットを置くというより、実際に物を収納するための大きさを持たせながら、その四角い面そのものをジャケットの造形へ組み込んでいます。
そして本品でもう一つ特徴的なのが袖の作りです。通常のテーラードジャケットのような筒袖ではなく、シャツのような長いカフを設け、二つのボタンによって留める仕様。
袖付けそのものはジャケットですが、袖口だけを取り出せばワークシャツやカバーオールに近い構造です。このディテールによって、ジャケット、シャツ、ワークウェアという複数のカテゴリーの境界が曖昧になっています。
背面には中央に大きくインバーテッドプリーツを配置。静止した状態では背中に一本の縦線として収まりながら、腕を動かした際にはプリーツが開いて身幅に余裕を生みます。ここでも単純にシルエットを大きくするのではなく、必要な時にだけ運動量を確保する合理的な設計が採られています。
肩周りにも過剰な構築感はありません。直線的な肩線とゆとりを持たせた身頃、長めの着丈によって、テーラードジャケットほど緊張感を持たせず、それでいてカバーオールのように完全な作業着にも見えない独特のプロポーションです。
内側を見ると、背裏と前身頃の一部にブラウン系のライニングを配置した背抜き仕様。全面を裏地で覆わないことで、コーデュロイの柔らかさや動きやすさを残しています。
内ポケットにはジップを備え、表側の大型ポケットとは別に、貴重品を収納するための実用的なスペースも確保。
hollingtonは、いわゆるフランスのモードブランドとは少し異なる位置に存在します。流行に合わせてシルエットを大きく変化させるよりも、スタンドカラー、天然素材、大きなポケット、簡潔な構造といった基本的な要素を長く掘り下げてきたブランドです。
そこには建築やBauhaus、ジャズ、スカンジナビアンデザインなど、Patric Hollingtonが関心を寄せていたさまざまな文化の影響がありながら、それらを直接的な装飾として服へ引用することはありませんでした。
むしろ、構造を整理すること。
素材そのものを見せること。
そして日常の中で実際に使える服であること。
本品も、スタンドカラー、三つの大きなパッチポケット、シャツ型のカフ、背面のプリーツという簡潔な構造を、表情豊かなブラウンのコットンコーデュロイ一素材で成立させています。
華美な意匠を加えなくとも、生地と構造だけで十分に個性が成立する。
1980年代頃のHollingtonが持っていた、フランスらしい知性とワークウェアの実用性、その両方を非常に素直な形で確認できる一着です。
■size(cm)
表記サイズ:46
肩幅49/身幅57/着丈77/袖丈60.5
■textile
Shell:Cotton100%
Lining:Cotton100%
■model
■condition
綺麗な状態です。
その他は画像をご確認下さいませ。
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