ARNYS Forestière ― Appointment Only
1963年、パリ16区の129 bis rue de la Pompeに"White House Renoma"をオープンした"renoma(レノマ)"。
中心人物であるMaurice Renomaは、仕立屋を営んでいた父Simon Cressyのもとで服作りに触れ、兄弟のMichelとともに若くして独自のスタイルを形成していきました。15歳頃にはスエード調の素材やローデンを使って自身のための服を作っていたとされ、その出発点からすでに英国的な衣服への関心と、既存のルールをそのまま受け入れない姿勢が見て取れます。
1963年に開かれたWhite House Renomaは、当時の保守的な紳士服とは明確に異なる場所でした。軍用生地を使ったブレザー、鮮やかなベルベットのスーツ、インテリアファブリックを転用したシャツなど、本来とは異なる文脈にある素材やディテールを積極的に服へ取り込んでいきます。細身のジャケットや大胆な色彩、英国のユースカルチャーからの影響などを組み合わせながら、それまでのフランス紳士服とは異なる男性像を提示しました。パリの若者だけでなく、音楽家や俳優、芸術家などが店を訪れるようになり、renomaは1960年代のパリにおける新しいメンズファッションを象徴する存在のひとつとなっていきます。
重要なのは、renomaが単に奇抜な服を作るブランドではなかったということです。
クラシック、ミリタリー、スポーツ、民族衣装、さらには現代美術まで、本来別々に存在していた要素を同じ服の中で組み替えていく。その姿勢は年代が進んでも失われず、1980年代後半になるとブランドの表現はよりスポーツウェアへと広がっていきました。1989年にはGORE-TEXを用いたスポーツウェアラインを発表し、ブルゾンやレインコート、パーカ、パンツなどへ機能素材を導入しています。Renomaの歴史の中では、装飾性の強い1960〜70年代だけでなく、こうした実用素材や機能的構造を取り込んだ時期が存在していたことも見逃せません。
今回ご紹介するのは、1990年代頃の一着。ブラックで統一された外観からは一見すると比較的落ち着いた印象を受けますが、実際には各所に非常に多くの構造が組み込まれています。
表地はCotton 26%、Polyester 54%、Polyurethane 20%という混率。一般的なコットンギャバジンやナイロンシェルとは異なり、表面にはわずかに鈍い光沢と独特の滑らかさがあり、光を受けた部分だけが淡く浮き上がります。ブラック一色でありながら、生地の折れや皺によって陰影が生まれる素材です。
全体はラグランスリーブによる設計。肩線を明確に区切らず、襟元から袖先まで斜めに生地をつなぐことで、アウターとしての運動量を確保しながら、大きな面で身体を包むようなシルエットを形成しています。
そして本品を特徴付けるのがフロントの構造です。単純な前開きではなく、複数の前身頃が重なる三重構造となっており、ボタンを開いていくことで内側からさらに別のフロントが現れます。最も内側にはジップによる開閉も備わり、一着の中に複数の前合わせを重ねたような構成です。
表側から見ると、水平に渡された二本のストラップ状パーツ、斜めに配されたポケット、丸みを持った大型の裾ポケットなど、多数の要素が存在します。しかし、それぞれを同色のブラックで統一することで装飾的に見せ過ぎず、機能のために付加された構造そのものがデザインとして現れるバランスにまとめられています。
襟にはブラックのコーデュロイを配置。本体の滑らかな質感に対して、細畝のコーデュロイを部分的に切り替えることで、同色でありながら明確な素材差を作っています。同様のコーデュロイは袖口の内側にも使われており、袖口を折り返した際にも本体とは異なる表情が現れる仕様です。
さらに袖の内部にはインスリーブを搭載。外側の袖口とは別に内側でも腕を包む構造を設けることで、単純な一枚仕立てのコートとは異なる作り込みが確認できます。袖口には複数のボタンを使った調整機構も備わり、細部まで機能服として設計されています。
フードは固定されたものではなく、襟周辺へ収納することが可能。必要に応じてフードを展開し、使用しない際には襟の構造へ収めることができるため、フードを出した状態と収納した状態では首回りの印象そのものが変化します。フード後部にもボタンが設けられ、立体感を調整するための細かな設計が加えられています。
さらに興味深いのが、ハンドウォーマーポケット内部に隠された持ち手です。本体をまとめることでバッグ状に持ち運ぶことができるパッカブルの機能が組み込まれており、その際に使用するハンドルが通常時には外側からほとんど見えない位置へ収納されています。パッカブルウェアというと、専用の収納袋や単一のポケットへ本体を押し込む簡略な仕組みを想像しますが、本品ではコートそのものの構造の中へ持ち運びの機能を組み込んでいます。通常の状態ではその存在を意識させない点も、この服の面白さでしょう。
ブランドタグには"renoma"のロゴとともに、創業以来の拠点である"129 BIS RUE DE LA POMPE PARIS 16°"の表記。1963年にWhite House Renomaが開かれた、その歴史的な住所がそのまま残されています。
1960年代に既存のテーラリングを崩すところから始まったrenomaですが、その本質は特定のスタイルを反復することではなく、異なるカテゴリーの衣服や素材を自由に組み替えることにありました。
本品もまた、フィールドコートやレインウェアを思わせる実用的な骨格を持ちながら、三重に構成されたフロント、収納可能なフード、インスリーブ、コーデュロイによる切り替え、そして本体そのものを持ち運ぶためのパッカブル構造までを一着の中へ集約しています。
それだけ多くの機能を備えながら、完成した外観はほぼブラック一色。細部を見て初めて構造の複雑さが明らかになるという点に、非常にrenomaらしい面白さがあります。
1960年代の大胆なメンズウェアから、1980年代末以降に見られる機能素材を用いたスポーツウェアまで。長年にわたり異なる服の文法を取り込み続けてきたrenomaの延長線上に位置する、1990年代らしい実験性を感じさせる一着です。
■size(cm)
表記サイズ:L
裄丈96/身幅69/着丈90
■textile
Shell:Cotton26% Polyester54% Polyurethane20%
■model
■condition
着用感はございますが、綺麗な状態です。
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