ARNYS Forestière ― Appointment Only
"HERMÈS(エルメス)"のカレにおいて繰り返し描かれてきた、馬具という題材。
その中でも、メゾンの原点である「馬具商」としての仕事を極めて直接的に図案へ落とし込んだ作品が、Julie Abadieによる"COACHING"です。
初版は1976年。タイトルとなる"COACHING"は、馬車や馬車を操ること、そのための馬具を含む世界を想起させる言葉になります。
1837年、Thierry Hermèsがパリで馬具工房を開いたことから始まったエルメスにとって、馬具は単なるブランドを象徴するモチーフではありません。現在のバッグや革小物、シルクへと事業が広がる以前から存在していた、メゾンそのものの出発点です。
"COACHING"に描かれているのも、まさにその世界。画面中央には何本もの革製ストラップが複雑に重なり合い、周囲には編み込まれたレザー、金属製のリングやバックル、馬具を構成するさまざまなパーツが配置されています。馬のハーネスを構成する要素から成り、メゾン本来の"harness and bridle-maker"としての仕事を表現しています。
面白いのは、それらを整然と並べて図鑑のように見せていないこと。中央の革紐は一度解かれた馬具を床へ置いたかのように不規則に重なり、ループを作りながら画面を横切ります。対して外周の馬具は正方形のフレームに沿うよう規則的に配置。
中央の有機的な曲線と、周囲の幾何学的な構成。
この二つを対比させることで、馬具という実用品だけを使いながら非常にグラフィカルな一枚に仕上げています。
さらに背景として描かれているのが、ストライプを伴った馬着。幅広いウールの組紐で縁取られた馬用ブランケットを背景に構成されており、運動や競走を終えた馬の身体が冷えることを防ぐために掛けられる馬着も題材に含まれています。
アイボリーと淡いオリーブによる横縞をベースに、ブラウンとグリーンで大きく縁取られた馬着を上下に配置。その上からキャメルブラウンのレザーが複雑に重なっています。
レザーの描写も単純な茶色の線ではありません。明るいタン、キャメル、コニャック、ダークブラウンを細かく使い分け、縁にはステッチまで描写。曲げられた革の内側には濃い影を置き、ハイライト部分には明るい色を入れることで、平面のシルクでありながら革の厚みや丸みまで感じられるように描かれています。
編み込まれたストラップを見ると、その細かさはさらに明確です。一本の線として処理するのではなく、革を編んだ構造そのものを一本ずつ描き分ける。バックルやリングについても、イエローを中心に濃淡を付けることで金属の光沢を表現しています。
Julie Abadieのサインがリングの内側へ小さく収められているところも、この作品らしいディテールです。
そして今回の個体を特徴づけているのが、オリーブを中心としたカラーリング。外周には深いオリーブグレー。その内側へ赤みのあるブラウン、モスグリーン、アイボリーを重ね、馬具にはキャメルからコニャック系のブラウンを使用しています。
金具にはやや黄味を帯びたゴールド。
全体としてかなりアースカラーに寄せられています。
華やかな配色の多いエルメスのカレの中では、かなり落ち着いた印象。
素材には、カレを代表するシルクツイル。細かな綾目による適度な張りと滑らかな光沢があり、プリントされたブラウンやオリーブにも奥行きが生まれています。エッジは外周のオリーブグレーに合わせたロール仕上げ。細く均一に巻き込まれた縁がわずかに盛り上がり、平面的なプリントの外周に立体感を与えています。
1976年にJulie Abadieによって生み出された"COACHING"。
馬具を華美な象徴として扱うのではなく、ストラップ、バックル、リング、編み込みといった構造へ分解し、それらを再構成することで一枚のグラフィックへ仕上げた作品です。
エルメスの原点である馬具製作と、カレというシルクプリントの技術。
その二つの関係を非常に分かりやすく感じられる一枚です。
■size(cm)
表記サイズ:90
■textile
Shell:Silk100%
■model
■condition
※箱は付属致しません。
使用感がございます。
その他は画像をご確認下さいませ。
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