ARNYS Forestière ― Appointment Only
"JIL SANDER(ジル・サンダー)"より、スエードレザーとスムースレザーを組み合わせたスリングバックサンダル。
一見すると非常にシンプルなサンダルですが、細部を追っていくと、一般的なレザーサンダルとはかなり異なる作りをしています。
JIL SANDERは1968年、ドイツ・ハンブルクにてジル・サンダーによって設立されたブランド。
過剰な装飾ではなく、素材そのものの質、線の引き方、身体と衣服の間に生まれる余白によって服を成立させることを得意とし、1980年代から90年代にかけて確立されたそのスタイルは、後に「ミニマリズム」という言葉で語られることになります。
ただし、JIL SANDERのプロダクトは単純に装飾を削っただけのものではありません。余計な要素を取り除くほど、素材の選択やパターン、縫製、パーツ同士の位置関係がそのままデザインとして表面に現れます。そのため、簡素に見えるものほど構造そのものに強さがあり、今回のサンダルにもその特徴がよく表れています。
アッパーには、毛足を短く整えたベージュ系のスエードレザーを使用。細かな起毛によるマットな質感を持ち、サンダル全体に柔らかく乾いた表情を与えています。そこに黄味を含んだ淡いカーキ系のフットベッドとミッドソールを組み合わせ、さらにブラックのラグソールを最下部に配置。
色数自体は抑えられていますが、スエード、スムース面、ラバーと質感を変えることで、単調にならない奥行きが生まれています。
中でも特に興味深いのが、甲部分のレザーの扱いです。
一見スエードのアッパーに別のスムースレザーを重ねているようにも見えますが、実際にはそうではありません。この部分は一枚の革から構成されており、革そのものを折り返すことで、表側とは異なるスムースな面を外側へ見せています。つまり、スエード部分とスムース部分を別々に切り出して接ぎ合わせているのではなく、一枚の素材を折り返し、その折り返した部分を金属製のリベットで固定することで、二種類の質感が現れる構造です。
異素材を追加することで装飾するのではなく、一枚の革が持つ表裏、あるいは表情の違いそのものを利用して変化を作っている。素材を増やさず、構造の中からデザインを生み出している点にJIL SANDERらしさを感じます。
甲の上部では、幅を持たせたレザーを折り返し、左右をリベットで固定。折り返した縁には丸みが生まれ、平面的なスエードの面に対して立体的な輪郭を与えています。つま先側にも同様の処理が施されており、こちらも一枚の革を折り返すことでスムース面を見せています。こうした作りにより、ステッチや切り替えを増やすことなく、スエードとスムースという異なる質感が自然に共存しています。
一般的な靴であれば、質感を切り替えるために別パーツを縫い合わせることが多いところ、この一足では一枚の革の扱い方そのものを設計にしています。かなりプロダクトデザイン的なアプローチです。
金属パーツも必要最低限。甲部分のリベットと、踵側のスクエアバックルのみで構成されています。いずれもジュエリーのような装飾性を持たせたものではなく、むしろ工業部品のような簡潔さ。柔らかなスエードレザーとの対比によって、その無機質な質感が良いアクセントになっています。
踵はバックストラップによって足を固定するスリングバック仕様。ストラップには複数のホールが設けられ、メタルバックルによってフィッティングの調整が可能です。
このサンダルをもう一つ大きく特徴付けているのが、ボリュームのあるソールです。華奢なレザーサンダルとは対照的に、ミッドソールにはしっかりと厚みが持たされています。アッパーからミッドソールまでを近い色調でまとめることで、厚み自体はありますが、不必要にソールだけが浮いて見えません。側面から見ると、アッパーとフットベッド、ミッドソールがひとつの大きな塊として連続しているように見えます。
その最下部にはブラックのラグソールを配置。大きなブロック状の凹凸を持つアウトソールで、底面中央には"JIL SANDER""MADE IN ITALY"の刻印が確認できます。
このラグソールによって、サンダルでありながらワークシューズやトレッキングシューズに近い重量感が生まれています。
オープントゥの軽快さと、厚いソールが生み出す強い存在感。
この相反する要素の組み合わせも、この一足の大きな魅力です。
フットベッドも単純な平面ではありません。つま先の周囲はレザーが立ち上がるように成形され、足先を包み込むような輪郭を形成。踵側にも同様に立体的な縁が設けられています。そこへバックストラップを組み合わせることで、サンダルらしい開放感を残しながら、靴に近い安定した構造を作っています。
スタイリングとしても、いわゆるリゾート的なサンダルとは少し異なる立ち位置です。
ワイドスラックスやウールトラウザーズに合わせれば、革靴ほど堅くならず、スポーツサンダルほどカジュアルにもならない。
リネンパンツやショーツはもちろん、軍物のオーバーパンツや太さのあるデニムにも、ソールのボリュームがしっかりと対応してくれます。
素足で履けばアッパーの大きなスエード面と肌との対比が生まれ、ソックスを合わせれば、よりシューズに近い感覚でも取り入れられる一足です。
大きなロゴも、分かりやすい装飾もありません。それでも、甲の革を折り返す方法、リベットの配置、フットベッドの立ち上がり、スリングバックの構造、ラグソールの厚みまで、ひとつひとつに明確な設計があります。
素材を増やさず、構造を工夫することで表情を作る。
非常にシンプルな方法ですが、そのシンプルさゆえに素材の良さと設計の巧さがそのまま現れています。
サンダルという簡素な履物を、レザーシューズのような作り込みと、ラグソールを備えた実用靴のボリュームによって再構築した一足。
JIL SANDERらしい、素材と構造そのものに魅力を持たせたプロダクトです。
■size(cm)
表記サイズ:43
ソール全長33/底幅14
■textile
Upper:Leather
Sole:Rubber
■model
■condition
比較的綺麗な状態です。
その他は画像をご確認下さいませ。
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