ARNYS Forestière ― Appointment Only
フランスを代表するレザーウェアメーカー、“SERAPHIN(セラファン)”。
1975年にパリで創業し、レザーという素材を専門的に扱い続けてきたSERAPHINは、華美な装飾やブランドを象徴するモチーフではなく、革そのものの質と、それを衣服へ仕立てる技術によって評価されてきたメーカーです。
今回ご紹介するのは、1990年代頃に製作された一着。
一見すると非常に簡潔なジップアップブルゾンですが、使用されている革、肩周りの独特なカッティング、そしてレザーとは思えないほど柔らかく落ちるシルエットまで、SERAPHINというメーカーの技術を随所に感じることのできる個体です。
何より特筆すべきは、その素材。
内側にはSERAPHINの織りネームとともに、
“RENNE / REINDEER”
と記されています。
“Renne”はフランス語、“Reindeer”は英語で、いずれも「トナカイ」を意味する言葉。
つまり、こちらに使用されているのはReindeer Leather=トナカイ革です。
牛革や羊革、山羊革などと比較すると、既製服のレザージャケットでトナカイ革を目にする機会は決して多くありません。
寒冷な地域に生息するトナカイから得られる革は、柔軟性を備え、衣服として仕立てた際に身体へ馴染みやすいことが特徴のひとつ。
この一着では、そのトナカイ革をスエード面で使用しています。表面には非常に細かな毛足が広がり、触れた方向によって色彩の濃淡が変化するテキスタイル。
カラーは黒に近いほど深いダークブラウン。光を吸収するようなマットな表情を基本としながら、毛並みの方向や光の当たり方によってブラウンが浮かび上がり、場所によってチャコールのようにも見える複雑な発色です。
均質な表情を持つファブリックとは異なり、身体が動くたびに革の表情そのものが変化する。スエードという素材の魅力を存分に感じていただけます。
そして、素材と並んで注目していただきたいのが、非常に特徴的な肩周りの構造です。
ネック付近から肩の上を通り、肩先を包み込むように切り替えられた独特なパターンを採用。
通常のラグランスリーブと異なり、肩の上にひとつのパネルを載せるような構成は、サドルショルダーを応用した変則的なスリーブパターンと捉えることができます。
正面から見るとネック付近から肩先へ緩やかな曲線を描き、横から見ることでその構造がより明確になります。
肩の頂点を一本の直線的なシームで決めるのではなく、革のパネルそのものが肩を覆い、その先から袖が落ちていく設計。
背面にもその切り替えは連続しており、首から肩、袖にかけて身体を立体的に包み込む仕様。
この構造によって生まれているのが、着用した際の独特な肩の落ち方です。
身幅とアームにはかなり余裕を持たせていますが、肩だけが外側へ張り出すことがありません。肩から袖へ境界線を強く作らず、身体の丸みに沿って自然に革が落ちていく。
一般的なラグランスリーブが持つ柔らかなショルダーラインと、サドルショルダーの立体的な構造。その双方を思わせる非常に興味深いパターンです。
そして、この複雑なカッティングをスエードレザーで成立させていることも見逃せません。
布帛とは異なり、革は一度縫製すると針穴が残る素材です。さらに天然素材である以上、一枚の革の中でも厚みや伸び方、表情には個体差があります。
どこを肩に使い、どこを身頃に配置するのか。
素材の状態を見極めながら裁断し、曲線を伴う複数のパーツを正確に縫い合わせる必要があります。
装飾をほとんど持たないからこそ、こうしたパターンと縫製そのものがデザインとして現れています。
シルエットも1990年代らしい魅力があります。
身幅を広く取り、アームにも十分な分量を与えながら、着丈はブルゾンらしく抑えたバランス。
裾はリブで絞ることで、身体とレザーの間に生まれた余白が裾付近で柔らかく収束します。
これだけ分量のあるシルエットでありながら、レザージャケット特有の硬さを強く感じさせないことはSERAPHINならではかと。
レザーウェアというカテゴリーにありながら、「革を着る」という重々しさを前面に出さない。
この点に、SERAPHINらしさを感じます。
内側には、
“MANUFACTURE SERAPHIN FRANCE”
のブランドネーム。
その下に配された“RENNE / REINDEER”という素材表記は、この一着を語る上で非常に重要なディテールです。
1990年代のSERAPHIN。
Reindeer=トナカイという珍しい素材。
そして、サドルショルダーを応用したような変則的なスリーブパターン。
単純に希少な革を使用しただけのレザーブルゾンではありません。
その革が持つ柔軟性を生かすために十分な分量を与え、複雑な肩のカッティングによって身体へ自然に馴染ませる。
素材の選択と衣服の設計がきちんと結び付いているところに、この一着の面白さがあります。
一見しただけでは、その特殊性を強く主張する一着ではありません。
しかし、手に取ればわかる素晴らしいスエードの質感があり、内側を見れば”RENNE / REINDEER”の表記があり、袖を通せば独特な肩の構造とレザーの落ち方が分かる。
素材、パターン、縫製を追っていくほど魅力が見えてくる、1990年代SERAPHINのレザーブルゾンです。
■size(cm)
表記サイズ:表記なし
裄丈95/身幅64/着丈71
■textile
Shell:Leather
Lining:Viscose60 × Cupro40
■model
■condition
とても綺麗な状態です。
その他は画像をご確認下さいませ。
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