ARNYS Forestière ― Appointment Only
1988年より"HERMÈS(エルメス)"のメンズ部門を手掛けるヴェロニク・ニシャニアンは、華美な装飾ではなく、素材そのものの魅力を最大限に引き出すことでエルメスのメンズウェアを築き上げました。特に1990年代は、現在でもヴィンテージ市場において特別視される時代です。採算性よりも品質を優先した素材開発が行われ、世界屈指の機屋と共に製作されたオリジナルファブリックは、現代では再現が難しいほど贅沢なものばかりでした。
本作は1995年春夏コレクション。
ヴェロニク・ニシャニアンによる初期作品の一つであり、当時のHERMÈSが持つ素材へのこだわりと、肩肘張らないエレガンスが見事に融合した一着です。
まず目を奪われるのは、生地そのものの美しさでしょう。
素材にはピュアリネンを100%使用。一般的なリネンの平織りとは異なり、細番手の糸を用いながらも甘く織り上げることで、表面には細かな凹凸が生まれています。光が当たるたびに陰影が生まれ、無地では表現できない豊かな奥行きを感じさせます。リネン特有の乾いたタッチはそのままに、空気をたっぷりと含む柔らかな膨らみを備えた生地は、まさに90年代のHERMÈSらしい贅沢なクオリティです。
さらに特筆すべきは、その色彩です。
アイボリーを基調に、ベージュ、グレー、淡いイエローが極めて繊細に交差し、遠目には柔らかな生成りに見えながら、近づくほど複雑な色の重なりが浮かび上がります。
派手さはありません。しかし単色では決して生まれない深みがあり、自然光の下では時間帯によって異なる表情を見せてくれます。現行のHERMÈSはより洗練された単色表現が中心となっていますが、この頃のHERMÈSには、複数色を混ぜ合わせることでしか生まれない独特のニュアンスカラーが数多く存在しました。90年代ならではと言える、この空気を含んだような優しい色味は、本作最大の魅力の一つでしょう。
柄も非常に興味深い仕上がりです。一見すると無地にも映りますが、実際には細かなチェックパターンが全体に織り込まれています。強く主張することはなく、生地の凹凸と溶け合うように表現されることで、見る角度や距離によって柄が浮かび上がる奥ゆかしさがあります。
織り柄と色糸、そしてリネンの節感。
その三つが重なることで、単なるチェックとは異なる、非常に立体的な表情を生み出しています。
そして、このジャケットをより特別な存在へと昇華しているのが、全体を縁取るパイピング仕様です。襟から前立て、裾に至るまで施されたグレーカラーのパイピングは、エルメスでは決して多く見られる意匠ではありません。本来であればデザインとして目立ちやすい仕様ですが、このジャケットでは主張しすぎることなく全体を引き締めています。淡いリネン生地とのコントラストによって輪郭が明確になり、柔らかなシルエットに程よい緊張感を与える。装飾というよりも、デザインそのものを完成させるための重要な要素として機能しています。
胸ポケットや大ぶりなパッチポケットも、このパイピングと相まって、どこかホームウェアやスモーキングジャケットを思わせるリラックスした印象を与えます。しかし決してラフになりすぎません。上質な素材と丁寧な縫製によって、HERMÈSらしい品格はしっかりと保たれています。
仕立てもまた、この一着を語るうえで欠かせません。裏地を一切持たないアンライニング仕様。余計な副資材を排することで、リネン本来の軽さと通気性をそのまま楽しめる構造となっています。袖を通した瞬間に感じる軽快さは、シャツに近いほど自然です。それでいてジャケットとしての佇まいは失われず、美しい襟の返りや肩のラインには、長年テーラリングを培ってきたメゾンならではの技術が息づいています。
構築し過ぎず、崩し過ぎない。
ヴェロニク・ニシャニアンが追求してきた、日常に寄り添うラグジュアリーが、この仕立てからも感じ取ることができます。
ボタンには天然素材ならではの柔らかな表情を持つボタンを採用。リネンの優しい色調と自然に馴染み、細部まで統一感のある仕上がりです。袖口の四つボタン仕様もクラシックなテーラードジャケットの意匠を受け継ぎながら、全体としてはあくまで軽快で柔らかな印象にまとめられています。
デニムやミリタリーパンツと合わせれば肩の力を抜いたスタイルに。
リネントラウザーズやウールスラックスと合わせれば、上質なリゾートスタイルとしても成立します。
決して着こなしを限定することなく、その日の装いに自然と溶け込んでくれる懐の深さも、このジャケットならではの魅力でしょう。
現在のHERMÈSにも卓越した品質は受け継がれています。しかし、この90年代の作品には、現代ではほとんど見かけることのない生地への贅沢さがあります。複雑な色糸を重ね、凹凸豊かなピュアリネンへと織り上げること。そこへ大胆なパイピングという意匠を取り入れながら、決して過剰な装飾には見せない絶妙なバランス感覚。そして裏地を持たない軽やかな仕立てによって、その素材を最も美しく着用者へ伝える設計。
素材、色彩、意匠、仕立て。
そのすべてが、90年代HERMÈSだからこそ実現できた完成度を物語っています。
流行ではなく、素材そのものの豊かさを楽しむための服。
ヴェロニク・ニシャニアン初期のクリエイションを象徴する、現代では出会うことの少ない一着です。
■size(cm)
表記サイズ:52
肩幅52/身幅57/着丈71/袖丈60
■textile
Shell:Linen100%
■model
176cm
■condition
とても綺麗な状態です。
その他は画像をご確認下さいませ。
発送まで4日程度頂戴いたします。
【必ずオンラインサイト下部の特定商取引法に基づく表記をお読みになってからご購入ください。】
※神経質な方のご購入はご遠慮ください。
※NCNR、ビンテージやアンティークにご理解のある方のみご購入下さい。
新商品やキャンペーンなどの最新情報をお届けいたします。