ARNYS Forestière ― Appointment Only
1980年代から90年代にかけて、ヨーロッパのデザイナーズシーンは既存の服作りを再解釈する革新的なブランドを数多く生み出しました。その中でも、デニムという最も日常的なアイテムをファッションの領域へ押し上げ、素材・パターン・加工技術のすべてに新しい価値観をもたらしたブランドが"Marithé + François Girbaud(マリテ・フランソワ・ジルボー)"です。
ブランドを手掛けたマリテ・バシュルリーとフランソワ・ジルボーは、1960年代初頭にフランス・リヨンで活動を開始。当初は古着のデニムを洗浄・リメイクすることからスタートしましたが、その過程で生地の風合いを変化させる洗い加工に着目し、当時としては画期的だったストーンウォッシュや様々なウォッシュ加工の研究を進めていきます。
現在では当たり前となったデニムのエイジング表現ですが、その礎を築いたブランドの一つがジルボーでした。単なる加工技術に留まらず、人間工学に基づく立体裁断や独創的なパターン設計を取り入れ、デニムを「作業着」からデザインウェアへと昇華させた存在として高く評価されています。
1970年代以降には世界市場へ進出し、1980年代から90年代にはヨーロッパを代表するデザイナーズブランドとして確固たる地位を確立。特に立体裁断を用いたパンツや独創的なカッティング、工業製品のような合理性とモード性を融合したデザインは、後のテックウェアやコンテンポラリーデザインにも大きな影響を与えました。
ジルボーの魅力は奇抜さだけではありません。一見するとシンプルに映るプロダクトであっても、細部には必ず機能性とデザイン性を両立させるための工夫が盛り込まれています。装飾を増やすのではなく、構造そのものをデザインへ変えていくという設計こそ、このブランドを象徴する魅力と言えるでしょう。
こちらは1990年代頃に製作されたコットンシャツ。
フロントはボタンを比翼で隠したフライフロント仕様となっており、ボタンが表に現れないことで、極めてミニマルで洗練された印象に仕上げられています。比翼仕立て自体はドレスシャツにも見られる仕様ですが、本作ではオーバーサイズシルエットと組み合わせることで、モードとカジュアルを絶妙なバランスで共存させています。前立てに余計な視覚情報が存在しないため、生地の美しい面構えやシルエットそのものが際立ち、ジルボーらしい構築的な美しさを感じられます。
特徴的なのは襟先に設けられた切り替えデザイン。通常であれば一枚で構成される襟を二枚のパネルで構築することで、フラットになりがちな襟元へ奥行きを生み出しています。装飾ではなく、パターンによって個性を表現するジルボーらしいアプローチです。
素材にはコットン100%を採用。程良く密度のある平織り生地は滑らかな肌触りを持ちながら、適度なハリも備えています。柔らかく身体へ馴染む一方で、シルエットが崩れ過ぎることはなく、美しいドレープと構築感を両立しています。
深みのあるネイビーカラーも非常に魅力的です。ブラックほど重くならず、ブルーほど軽快になり過ぎない絶妙な色調は、90年代のヨーロッパデザイナーズらしい落ち着きを感じさせます。光の当たり方によって青みが浮かび上がり、陰影によってはチャコールのようにも映る豊かな表情を持っています。
そして本作で特に印象的なのが、袖口の裏側やネック内側に施されたストライプ生地です。通常着用時には見えない部分へ異なるファブリックを組み合わせることで、袖をロールアップした際や襟元がわずかに開いた瞬間に爽やかなストライプが現れます。
このようなディテールは決して派手ではありません。しかし着る人だけが知る遊び心であり、ふとした動作によって表情が変化する仕掛けとなっています。
袖口には上品なシェルボタンを採用。ネイビーのボディに対して控えめな光沢を放つボタンがさりげないアクセントとなり、ワークシャツのような実用性だけでは終わらない上質さを感じさせます。
シルエットは90年代らしいゆったりとしたオーバーサイズで、肩や身幅には十分なゆとりが設けられていますが、着丈とのバランスが巧みに調整されているため、必要以上に大きく見えることはありません。背面中央にはボックスプリーツを設け、肩周りの可動域を確保するとともに、生地が自然に落ちる美しい後ろ姿を演出しています。
タックイン・タックアウトのどちらにも対応し、一枚で着てもジャケットのインナーとして合わせても成立する汎用性の高さも魅力です。
デザインを主張し過ぎることなく、それでいて着用すると確かな個性を感じさせる。
それは長年にわたりパターンや構造を研究し続けてきたジルボーだからこそ実現できた完成度と言えるでしょう。
フライフロントによる静かな美しさ、袖裏に潜ませたストライプの遊び心、そして独自の襟設計が生み出す立体的な表情。
ジルボーが追求した「構造そのものをデザインへ変える」という美学を、日常の装いの中で自然に楽しんでいただける、90年代ならではの完成度を備えたヴィンテージシャツです。
■size(cm)
表記サイズ:XXL
肩幅55/身幅66/着丈82/袖丈66.5
■textile
Shell:Cotton100%
■model
■condition
前見頃等一部箇所にシミがございます。
その他は画像をご確認下さいませ。
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