ARNYS Forestière ― Appointment Only
1946年、第二次世界大戦直後のパリ。繊維業界の実業家マルセル・ブサックの支援を受け、一人のデザイナーが自身の名を冠したメゾンを創設します。その人物こそ、Christian Dior(クリスチャン・ディオール)。戦後の疲弊したヨーロッパにおいて、人々が再び装う喜びを取り戻すことを信じ、パリ・モンテーニュ通り30番地に"Christian Dior"を設立しました。
翌1947年、最初のオートクチュールコレクション"Corolle Line"を発表。細く絞られたウエスト、大きく広がるスカート、女性らしい曲線を強調したそのシルエットは、当時の『Harper's Bazaar』編集長カーメル・スノーによって"New Look"と名付けられます。
それまでの実用性を重視した軍服的なシルエットから一転し、豊かな布量と優雅なラインを取り戻したその提案は、戦後のファッション史を大きく塗り替えました。ニュールックは単なる流行ではなく、"オートクチュールとは何か"という価値観そのものを更新した出来事であり、Christian Diorの名は瞬く間に世界へ広がっていきます。
しかし、その成功は決して女性服だけに留まりませんでした。
1948年にはニューヨーク法人を設立し、香水やアクセサリー、ライセンス事業にも早くから着手。1950年代にはネクタイやシャツなどのメンズアイテムも展開され、ラグジュアリーメゾンがライフスタイル全体を提案する現在のビジネスモデルを、いち早く確立したブランドの一つでもあります。
1957年、創業者クリスチャン・ディオールは52歳という若さで急逝します。しかし、その後を21歳の若きイヴ・サンローランが引き継ぎ、続いてマルク・ボアン、ジャンフランコ・フェレ、ジョン・ガリアーノ、ラフ・シモンズ、マリア・グラツィア・キウリといった錚々たるデザイナーが歴史を繋いできました。
一方でメンズラインにおいても、長年にわたりクラシックなドレスウェアを中心とした高品質なプロダクトを生み出し続けています。現在ではキム・ジョーンズが手掛けるモダンな"Dior"が広く知られていますが、その礎となったのは1980〜90年代に展開されたChristian Dior名義のメンズコレクションです。
当時のChristian Diorは、派手なロゴやデザインで主張するブランドではありませんでした。
フランスらしい上質な仕立て、素材への徹底した拘り、色彩設計、そして着用した際の美しいシルエット。それらを積み重ねることで、ラグジュアリーを表現していました。現在のヴィンテージ市場でも、この時代のフランス製Christian Diorシャツは、その完成度の高さから高い評価を受けています。
こちらは1990年代頃に製作されたChristian Diorのコットンシャツ。
生産国はフランス。現在ではイタリアやその他地域での生産も珍しくありませんが、本個体はChristian Diorが本国フランスで製作していた時代の一着。ブランドが長年培ってきたドレスシャツ作りの技術が色濃く残るプロダクトです。
まず目を惹くのが、この絶妙なカーキカラー。ベージュともブラウンとも異なる、中間的な色味です。オリーブほど緑味は強くなく、土や砂を思わせる乾いたニュアンスを帯びています。光が当たるとややベージュ寄りに映り、陰影では深みのあるカーキブラウンへ変化するため、一色でありながら非常に奥行きがあります。黒やネイビーほど重くならず、ベージュほど柔らかくなり過ぎない。この曖昧な色彩こそ、90年代ラグジュアリーブランドが得意としていたニュアンスカラーであり、現在でも再現が難しい色味の一つと言えるでしょう。
素材には高密度に織り上げられたコットン生地を採用。近くで見ると細かな織り目が規則正しく並び、程よいハリとしなやかさを両立しています。生地自体は決して厚手ではありませんが、密度が高いため透け感は少なく、着用すると自然な立体感が生まれます。洗いを重ねることでさらに柔らかさを増しながらも、輪郭は失われにくく、長年着用することで風合いが深まっていく素材です。
シルエットは90年代らしいゆったりとしたオーバーサイズ。肩幅、身幅ともに十分な余裕を持たせながら、着丈とのバランスを整えることで、野暮ったさではなく品のあるリラックス感を生み出しています。タックインすれば柔らかなドレープが生まれ、アウトで着用しても裾のラウンドが自然な動きを作り出します。
背面にはヨーク切り替えと左右のサイドプリーツを配置。中央にボックスプリーツを設けるのではなく、両肩付近へ運動量を分散することで肩甲骨周辺の可動域を確保しています。見た目は端正なまま、着用時には背中が自然に動く実用的な仕様です。
襟はクラシックなレギュラーカラー。程よく長さを持たせた襟羽根は、美しい直線で構成され、第一ボタンまで留めた際には端正な印象を与えます。一方でボタンを一つ外すと襟先が自然に開き、力みのない表情へ変化。ドレスシャツとしてもカジュアルシャツとしても成立する絶妙なバランスです。
左胸にはシンプルなスクエア型のパッチポケットを配置。余計な装飾は加えず、生地と同色のステッチのみでまとめることで、全体のミニマルな印象を崩していません。
袖口は二段階で調整可能なカフス仕様。さらにカフスにはChristian Diorを象徴する"CD"モノグラムが同色で刺繍されています。遠目にはほとんど主張せず、近づいた時にだけブランドを感じさせるこの控えめな意匠は、当時のChristian Diorらしい品格を象徴しています。
剣ボロは細くシャープに設計され、袖先まで美しいラインが続く仕様。
ボタンには深みのあるグレーからパープルへと光を受けて表情を変えるシェルボタンを採用しており、天然素材ならではの虹色の干渉色が、カーキの生地に静かな華やかさを添えています。
こうした副資材の選択にも、ラグジュアリーメゾンらしい拘りが感じられます。
現在のDior Hommeや現行Diorは、エディ・スリマンやキム・ジョーンズの影響によるシャープでファッション性の高いコレクションが中心です。しかし、この時代のChristian Diorシャツには、それ以前のメゾンが長年積み重ねてきたクラシックなシャツ作りがそのまま息づいています。
流行を追うためではなく、10年、20年と着続けることを前提に設計された普遍的な一着。
スラックスと合わせれば上質なドレススタイルに。デニムやミリタリーパンツと組み合わせても、カーキ特有の柔らかな色味が全体を自然にまとめてくれます。ジャケットのインナーとしても、春秋には一枚着としても活躍し、季節を問わず長く付き合える汎用性を備えています。
ブランドの歴史、フランス製という背景、完成されたパターン、上質なコットン、そして時代を超えて色褪せないニュアンスカラー。
90年代のChristian Diorが持っていた控えめで知的なラグジュアリーを、今なお感じることのできる一着です。
■size(cm)
表記サイズ:44-5, 17 1/2
肩幅49.5/身幅63.5/着丈83/袖丈67
■textile
Shell:Cotton100%
■model
■condition
全体的に着用感がございます。
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