ARNYS Forestière ― Appointment Only
1966年、"Yves Saint Laurent(イヴ。サン=ローラン)"はファッション史における大きな転換点を生み出します。
それが""Rive Gauche(リヴ・ゴーシュ)"の誕生でした。
当時のオートクチュールは限られた顧客だけのものでしたが、Yves Saint Laurentは高級服の価値観を維持したまま既製服へ落とし込むことに成功します。
それは現代のラグジュアリープレタポルテの原型そのもの。
その後ブランドは時代ごとに様々なデザイナーへ受け継がれていきます。
2002年、Tom Ford(トム・フォード)による劇的な時代が幕を閉じた後、その後任としてクリエイティブディレクターに就任したのがStefano Pilati(ステファノ・ピラーティ)でした。
1965年イタリア・ミラノ生まれ。
幼少期より洋服製作に興味を持ち、若くしてファッション業界へ進みます。
Cerruti、Giorgio Armaniで経験を積み、その後Pradaグループ傘下のMiu Miuにてパターンや素材開発を担当。
さらにTom Ford時代のYSLへ参加し、メンズ・ウィメンズ双方の制作に深く関わることになります。
そしてTom Ford退任後、ブランド全体を託される存在となりました。
Pilatiの特徴は非常に明確です。
過剰な装飾や露骨なセクシーさではなく、カッティング、素材、バランスによってエレガンスを構築すること。
またクラシックウェアへの造詣が深く、テーラリングやスポーツウェアを再解釈する能力に長けていました。
後年のErmenegildo Zegna Coutureでも同様ですが、彼の作品には常に"着用者を引き立てる服作り"が見られます。
2005SSはまさにその魅力が表れたシーズンでした。
こちらは一見するとシンプルなブルゾン。
しかし実際には、ブルゾン、カーディガン、テーラードジャケットという異なるカテゴリーの要素が巧みに融合されています。
一般的なスポーツブルゾンのような力強さはありません。
かといってジャケットのような堅さもありません。
前立てはジップではなくボタン。
襟はシャツ襟でもスタンドカラーでもなく、非常に低いリブ仕様。
袖口と裾もリブながら、スポーティーさを強調するデザインではなく全体を穏やかに引き締める役割を果たしています。
ここにStefano Pilatiらしさがあります。
彼はスポーツウェアを作りながらもスポーツウェアに見せない。
テーラードを作りながらも堅苦しく見せない。
相反する要素を極めて自然な形で共存させることに長けていました。
このブルゾンもまた、その代表例と言えるでしょう。
使用されているのはコットンを使用したチェック生地。
非常に細かなチェックで構成されており、遠目では無地に近く見えながら、近づくと複雑な表情が現れます。
ブラックとホワイトによるクラシックなグレンチェックを基調としながら、そこへブラウンとイエローのオーバーペーンを加えることで独特の奥行きを生み出しています。
特に興味深いのはリブとの配色です。
通常であればブラックやネイビーを選択しそうなところを、あえてキャメルブラウンを採用。
さらにホワイトラインを走らせることでスポーツウェア由来のディテールを残しながらも上品な印象へ昇華しています。
素材同士のコントラストが非常に美しい一着です。
またコットン生地特有の扱いやすさも魅力です。
ウールブルゾンのような重さはなく、春から初夏、秋口まで長期間着用可能。
デザイン性だけでなく日常着としての機能性も考慮されています。
このブルゾンを語る上で最も重要なのはシルエットです。
写真からも分かる通り、肩線は比較的自然に設定されています。
極端なドロップショルダーでもなく、細身のモードシルエットでもありません。
身体を包み込むような設計です。
身幅には適度なゆとりがあります。
しかし裾リブによって全体が整理されるため、着用時には美しい丸みが生まれます。
これは1950年代のアメリカンスポーツジャケットにも見られる構造ですが、Pilatiはそこへイタリア的な洗練を加えています。
また着丈も秀逸です。
短すぎず長すぎない。
トラウザーズとのバランスを考慮した絶妙な設定となっています。
ジャケットの代わりとしても成立し、ブルゾンとしても成立する。
その中間に位置する非常に完成度の高い設計です。
さらに柄合わせも見逃せません。
前立てやポケット周辺に至るまで丁寧に構成されており、高級プレタポルテらしい精度の高さを感じさせます。
最も印象的なのはボタンフロント仕様でしょう。
2000年代初頭のラグジュアリーブルゾンではジップ仕様が主流でした。
その中であえてボタンフロントを採用することで、どこかクラシックな空気を生み出しています。
またポケットはシームに沿って配置されており、視覚的なノイズを極力抑えています。
余計なフラップや装飾もありません。
極めて整理された構成です。
さらに裏地には大きなYSLモノグラム刺繍。
これは表から見えない部分に贅沢を施すというラグジュアリーブランドらしい手法です。
ブランドロゴを外側へ大きく見せる現代的なアプローチとは対照的であり、当時のYSLが持っていた品格を感じさせます。
またリブの色使いも非常に特徴的です。
ブラウンとホワイトのラインがチェック生地と呼応し、全体を一つのプロダクトとして完成させています。
単なる装飾ではなく、デザイン全体を成立させる重要な要素です。
彼の服はランウェイのためだけに作られていません。
日常の中で実際に着用されることを前提として設計されています。
だからこそ20年近く経過した現在でも古さを感じさせないのです。
Tom Fordの華やかさと、Hedi Slimaneの鋭利なロックテイストの間に位置する時代でありながら、実際には極めて完成度の高い服作りが行われていました。
こちらのブルゾンもその好例です。
クラシックなグレンチェック。
スポーツウェア由来のリブ。
ミニマルなボタンフロント。
美しく整理されたシルエット。
それぞれ単独では特別な要素ではありません。
しかしStefano Pilatiの手によって組み合わされることで、他にはない存在感を獲得しています。
派手さで魅せる服ではない。
素材、構造、配色、パターンによって完成度を高めた一着です。
Yves Saint Laurentが築いたプレタポルテ文化と、Stefano Pilatiの卓越したバランス感覚が融合した2000年代アーカイブ。
現代の視点から見ても極めて完成度の高い、コレクターズピースと呼ぶに相応しい一着でしょう。
■size(cm)
表記サイズ:46
肩幅45/身幅53/着丈64/袖丈67
■textile
Shell:Cotton100%
Lining:Cupra100%
■model
■condition
着用感はございますが綺麗な状態です。
その他は画像をご確認下さいませ。
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