かつて"スポーツウェア"という言葉が単なる実用の装いを指していた時代に、それを美意識の対象へと昇華させたブランドが存在しました。
その名は"C.P. COMPANY(シー・ピー・カンパニー)"——
それはイタリアンメンズウェアの革新者マッシモ・オスティ氏によって1971年に誕生した、機能美と素材革新の結晶。

出発点は、ミリタリーやワークウェアにインスピレーションを受けた、実用的でありながらエレガントな日常着の再解釈。
オスティは単なるデザイナーにとどまらず、資料収集家であり、文化的考古学者でもありました。
彼は数多のアーカイブピースを分析し、当時では考えられなかったような染色技術や生地の加工を実験的に導入することで、同ブランドを唯一無二の存在へと育て上げます。

その象徴とも言えるのが"ガーメントダイ(製品染め)"の技術。
従来は布地の段階で染め上げるのが主流であったなか、C.P. COMPANYは完成した製品を丸ごと染めるという発想を取り入れました。
この手法により、生地ごとの素材感の違いや縫製の立体感が際立ち、一点ごとに異なる表情が生まれます。
まさに"工業製品でありながら一品もの"という矛盾を同居させた、詩的な衣服たち。

ファッションのトレンドが流動的であるなかにあって、C.P. COMPANYのアプローチは一貫して"研究し続けること"にあります。
それは決して流行に迎合するのではなく、常に素材と構造の関係性に問いを投げかける姿勢。
テクノロジーを衣服にどう落とし込むか、都市と自然の境界線をいかに曖昧にするか——その試みのすべてが、結果として時代に先駆けるプロダクトを生んできました。

Alessandro Pungetti(アレッサンドロ・プンゲッティ)は、C.P. COMPANYの革新と継承、その両輪を担う存在として、ブランドの現在を支えるデザイナー。
彼の仕事は、単なる"アップデート"にとどまりません。
むしろ、マッシモ・オスティ氏が遺した思想——素材への執着、機能と装飾の境界を超越するデザイン、アーカイブに対する敬意を深く理解し、それを現代の感性に即して再構築する静かな革命児。

彼のデザインには、オスティ氏から受け継いだ資料主義的なアプローチと、テクニカルな素材開発へのこだわりが脈打っています。
特に、ガーメントダイやミリタリー由来のディテールを駆使しながらも、それらを過去の焼き直しではなく"再文脈化"する手腕は、彼ならではの技と知性によるもの。
今現在、ファッション愛好家の間で密かに人気を集める"TEN c(テン・シー)"のデザイナーを務める同氏のクリエイションは、オスティ氏の文脈から外れることなく、近未来的な要素を取り入れたプロダクトが印象的です。

本品のデザインを手掛けたのは、当時C.P. COMPANYの中核を担っていたプンゲッティ。
マッシモ・オスティが築き上げた思想と実験精神を、最も誠実に、そして現代的に継承していた時代のプロダクトです。

最大の特徴は、ブランドを象徴する"Spalmatura(上塗り)"加工を施したコットン×ナイロンファブリック。
Spalmaturaとは、生地表面に樹脂やポリウレタンを塗布することで、防風性・耐水性を高めると同時に、独特のムラ感と深い陰影を生み出す加工技法です。
本品は加工を施しながらもあくまで「布の質感」を残した柔らかな表情が特徴的。
着用と時間の経過によって現れた自然な擦れや色ムラが、単なる機能素材を超えた有機的な佇まいを獲得しています。

シルエットは、ミリタリー由来のフーデッドコートをベースにしたロング丈。
ウエストにはベルトが配され、絞ることで表情を自在に変化させることが可能です。
無造作に羽織れば直線的で静かな印象に、ウエストを絞れば身体に沿った立体的なシルエットへと変わる。
その可変性こそが、C.P. COMPANYらしい"着る人に委ねられた完成形"を体現しています。

フードは首元までしっかりと立ち上がる設計で、ドローコードやスナップによる細かな調整が可能。
都市生活における防風性・防寒性を確保しながら、過剰なアウトドア感を排したバランス感覚は、プンゲッティならではの美意識です。
袖口やポケットのディテールも極めてミニマルで、あくまで素材と構造が主役となる設計が貫かれています。

特筆すべきは 裏地にリネン素材を採用している点。
通常、コーティング素材のアウターは合成繊維の裏地が用いられることが多い中で、あえてリネンを組み合わせることで、肌離れの良さと自然な通気性を確保しています。
冷たい工業素材と、素朴で有機的な天然素材。
この相反する要素を一着の中で共存させる発想こそ、C.P. COMPANYの本質であり、オスティからプンゲッティへと受け継がれた思考の証です。

このコートは、決して派手さで語られる服ではありません。
しかし、触れ、着て、時間を重ねるほどに、その完成度と思想の深さが静かに伝わってきます。
機能性を誇示するのではなく、生活の中で自然と馴染み、結果として美しさが滲み出る——05AWのC.P. COMPANYが到達していた、極めて成熟した境地を象徴する一着と言えるでしょう。
流行とは無縁の場所で、研究と実験の積み重ねから生まれた服。
この一着はC.P. COMPANYというブランドが「なぜ今なお語られ続けるのか」を、雄弁に物語っています。

■size(cm)
表記サイズ:52
肩幅53/身幅67/着丈102/袖丈67

■textile
Shell:Cotton70% Nylon30%
Lining:Linen100%

■model

■condition
とても綺麗な状態です。
その他は画像をご確認下さいませ。

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