19世紀、馬具工房としてその歴史をスタートさせた"HERMÈS(エルメス)"は、ラグジュアリーという言葉が今日のように多義的でなかった時代から、変わらぬ価値観で"真に上質なものとは何か"を問い続けてきたブランド。
1837年にティエリー・エルメスがパリで創業したこのメゾンは、上流階級の馬車文化に根差した革製品で名声を確立し、そのクラフツマンシップと実直な姿勢を時代の変化とともに進化させながら、現代にまでその精神を脈々と伝えています。

エルメスの最大の特徴は、どのようなプロダクトにおいても一貫して"素材"、"手仕事"、"静けさ"を重んじている点。
たとえばレザーにおいては、自社専属のタンナーを抱え、数年にわたる研修を経た職人によって仕上げられる"エルメス基準"のもののみが採用されます。
衣服においてもそれは変わらず、ウールやカシミア、シルクにいたるまで、最良の原料が世界中から選び抜かれ、卓越した縫製技術とともに製品化されています。

"控えめであること"はエルメスにとって美徳。
そこには、縫い目の数、ボタンの厚み、色の重なりといった"語られない細部"が、着る人にだけ理解される密やかな贅沢として息づいています。
エルメスの服は、主張することなく佇む。
そして、佇むことで他とは明らかに違う存在感を放つ。
こうした精神性が、トップセレブリティーの顧客たちを魅了し続ける所以でしょう。

そしてメンズウェアにおいて、その静謐な美を現代にふさわしいかたちで再構築した立役者こそが、"Véronique Nichanian(ヴェロニク・ニシャニアン)"。
1988年よりエルメスのメンズ部門を率いる彼女は、男性服の枠組みを壊すのではなく、丁寧に拡張し続けてきた稀有な存在。

ニシャニアンは、クラシックなメンズウェアの文法を尊重しながら、そこに静かな遊び心と詩的な軽やかさを加えることで、エルメスならではの"男性像"を確立しています。
彼女の手がけるコレクションに共通するのは、素材のもつ手触りと落ち感、動きと光に呼応する仕立ての美しさ、そして年齢や体型を問わない包容力のあるフォルム。
テーラードの中にリラックスがあり、ラグジュアリーの中にユーモアがあり、その均衡感覚こそが、ヴェロニクの真骨頂。

また、メゾンの哲学と地続きである彼女の仕事には、決して過剰なコンセプトや劇的な変化はありません。
その代わりにあるのは、微細な調整と構築、そしてシーズンを跨いでも変わらない"服としての信頼性"。
流行を追いかけることのない服は、ワードローブの中で長く寄り添い、時に主役となり、時に背景となって着る人の人生を支える存在となります。

ニシャニアンが築き上げたエルメスのメンズウェアらしさを最も端的に語るのは、ひとつのアイテムに過度な主張や複雑さを求めず、あくまでも「動き」「軽さ」「日常の美」を中心に据えている点です。
今回ご紹介するブルゾンは、まさにその哲学を静かに体現した一着となっております。

まず目を引くのは、肩線を排したラグランスリーブをさらに分割するように走るレザーのラインです。
一般的なスポーツブルゾンとは異なり、この分割線は単なる切り替えでなく、動きに合わせて布が自然に流れるよう計算された逆スプリットラグランの構造であり、袖を通した瞬間に感じる"身体への吸い付きの良さ"は、エルメスならではの高度なパターン技術の証といえます。
さらにその縁をさりげなく縁取るレザートリムが、無言のラグジュアリーを添えています。
素材の表情を乱すことなく、上品に光を受けるシープレザーは、控えめでありながら確かな存在感を放ち、ニシャニアン流の"静かな装飾性"を感じさせます。

生地はさらりとした高密度ナイロンを主体とした軽量素材。
風の抵抗を受けても形が崩れにくく、撥水性も兼ね備えた頼もしさがありながら、その手触りは驚くほど柔らかく、手に収まる空気のような軽やかさがあります。
裏地には通気性に優れたメッシュを採用し、ミッドシーズンから初夏まで快適に羽織ることができる汎用性の高さも魅力です。

前立てには上下どちらからも操作できるダブルジップを装備。
アクティブなシーンでは可動域を確保し、装いにニュアンスを持たせたい日にはジップの位置で表情を変えることができます。
プルタブにはレザーがあしらわれ、滑らかな操作性の中に、さりげなく手仕事の温かみが忍ばせてあります。

シルエットは、身体のラインを拾わず、かといってルーズすぎることもない絶妙なバランス。
年齢や体型に左右されないエルメスらしい包容力を備えつつ、羽織るだけで空気をまとったかのような軽さを演出します。
カラーリングのオリーブトーンも秀逸で、過度にミリタリーへ寄りすぎず、むしろ自然の光の中で深みを増す洗練された色調に仕上がっています。

"普遍を更新し続ける"というニシャニアンの哲学は、声高に語られるものではありません。
しかしこのブルゾンに袖を通した瞬間、その静かな研ぎ澄ましを、誰もが確かに感じ取るはずです。
エルメスが提案するのは、流行でも誇示でもなく、"日々のなかでふと気づく、確かな上質"。
その本質を、美しく、正直に、そして軽やかに体現した一着です。

■size(cm)
表記サイズ:54
肩幅51.5/身幅61/着丈69.5/袖丈66.5

■textile
Shell:Nylon53% Polyester42% Polyurethane5%
Lining:Polyester100%
Wadding:Nylon80% Polyester20%

■condition
褪色がございますが綺麗な状態です。
その他は画像をご確認下さいませ。

発送まで4日程度頂戴いたします。

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