1992年、バルセロナオリンピック。
華やかな開会式の裏側で、静かに注目を集めた一着がありました。
それは、イタリア選手団に"Loro Piana(ロロ・ピアーナ)"が提供したオフィシャルウェア——機能性と気品を両立した、ナイロン製のバルマカーンコート。
本作は、そのオリジナルモデルを忠実に再現した、貴重なレプリカ品です。

Loro Pianaは、イタリアを代表する高級服地メーカーであり、ラグジュアリーウェアのブランド。
創業は1924年、北イタリア・ピエモンテ州。
上質なカシミヤやウールの供給元としてメゾンブランドから絶大な信頼を集め、
1980年代後半からは、自社名義でのウェア展開にも本格的に着手。
「上質さを主張しないこと」が最大の美徳とされるこのブランドの哲学は、スポーツの世界においても特異な存在感を放ちました。

バルセロナ五輪では、公式サプライヤーとしてイタリア代表にウェアを提供。
その中でも注目されたのが、このナイロン製のハーフ丈コートです。
本作は、その希少なプロトタイプをベースに再構築された90年代のレプリカ。
当時の空気感と構造美を丁寧に引き継ぎながら、現在のスタイルにも馴染む完成度を誇ります。

素材には、Loro Piana独自開発の高密度ナイロンを採用。
雨や風を穏やかに遮りつつも、まるで天然繊維のように柔らかなタッチを持ち、
動きに応じて美しく波打つドレープを生み出します。
街に溶け込む上品な艶感と、アウトドアスペックにも通じる実用性が同居する、極めて稀有なテキスタイルです。

構造上、最大の特徴はワンパネルスリーブの袖付けです。
肩から袖口までを一枚のパーツで構成するこの仕様は、腕の可動域を大きく確保し、
着用者の動きに自然と寄り添います。
見た目にもステッチラインが省かれることで、より洗練された印象を与えてくれるディテールです。

前立ては比翼仕立てで、ボタンを覆い隠すことにより、ナイロン素材の美しさを損なわずに保ちます。
腰にはフラップポケット、裾にはほのかなカーブをつけたカッティング。
一見ミニマルでありながら、着る者の視線にだけ訴えかけるような、さりげない意匠が散りばめられています。

カラーは深みのあるネイビーブルー。
決して黒に沈むことのない、Loro Pianaらしい知的な色調で、光を受ける角度によってブルーグレーやチャコールの表情を見せます。
落ち着きの中に微かな艶が宿り、ナイロン素材特有の軽やかさと上質さを両立した色味です。

襟は外側がボディと同色のネイビーで統一され、裏側にマスタードイエローのレザーを配した二重構造。
この隠れたレザーパーツが、首元に差し込む瞬間だけ控えめに覗き、スタイルにわずかな緊張感と遊び心を添えます。
表面ではなく襟裏に配されたこの仕様は、派手さを避けつつも職人の感性が光るディテールであり、スポーティな印象の中に"イタリア的上品さ"を感じさせます。

全体を包み込むネイビーと、内側で静かに主張するイエローレザー。
そのコントラストは控えめでありながらも、Loro Pianaが追求する「素材の会話」を見事に体現しています。

このコートは、スポーツの場で着用されたにもかかわらず、決してアスレチックではありません。
そこにはLoro Pianaが長年培ってきた、美学がはっきりと現れています。

五輪という国際舞台において、民族性やアイデンティティを"美意識"で表現するという、
非常に洗練されたアプローチをとったイタリアチーム。
このコートは、そんな瞬間に生まれた「文化としてのスポーツウェア」の象徴とも言える存在です。

時代を越えても褪せない洗練。
90年代Loro Pianaが、素材と構造と哲学のすべてを注ぎ込んだ稀少な一着。
それは、単なるレプリカではなく、"記憶の服"として、現代のワードローブに静かに寄り添います。

■size(cm)
表記サイズ:
裄丈93.5/身幅73.5/着丈85

■textile
Shell:Nylon100%
Lining:Polyester65% Cotton35%

■model

■condition
着用感はございますが綺麗な状態です。
その他は画像をご確認下さいませ。

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