19世紀、馬具工房としてその歴史を歩みはじめた"HERMÈS(エルメス)" は、創業当初から「素材」「手仕事」の価値を一切手放さず、時代を超えて"本質的な豊かさとは何か"を追求し続けてきました。
1837年、ティエリー・エルメスがパリで馬車用ハーネスを手がけたことに端を発するこのメゾンは、後のファッション産業の巨大化に左右されることなく、クラフツマンシップに基づく製品づくりを徹底。
レザー・テキスタイル・金具に至るまで妥協なき素材選定を行い、その静謐な佇まいをブランドの美徳として守り続けてきました。

エルメスの衣服に共通するのは、決して声高に主張することなく、ただ"存在そのもの"で深い説得力を放つ構築美です。
縫い目の運び、ボタンの選定、ステッチ幅、布地の揺らぎ。
そうした「語られない細部」こそがエルメスの服の価値を支えており、長い年月を経ても古びない気品が宿り続ける理由でもあります。
そんなメゾンの精神が色濃く宿るのが、今回ご紹介する一着。

コットンにポリウレタンを混紡した生地は、80年代のエルメスに特徴的な"織りの密度"と"鈍い光沢"を備えており、手に取った瞬間に感じる重みと落ち感は、現在の量産品ではけっして得られない奥行きをもっています。
ガシッとした武骨さではなく、繊維の芯に柔らかさを残した上品なハリ。
光を受けた際のわずかな陰影が、素材の質の高さを静かに物語っています。

デザインはダブルブレストの王道的な構築を軸にしつつ、ラグランスリーブを採用することで、クラシックな軍用コートの趣と、メゾンらしい都会的な柔らかさが同居した佇まいに。
肩線のないラグランは、構造上ゆったりとした可動域を生み、着たときの落ち感を自然に演出します。

また、フロントの"HERMÈS PARIS"のロゴ入りボタンは80年代特有のやや大ぶりで重厚なタイプ。
控えめながらも確かな存在感があり、メゾンの古き良き時代の空気を象徴するディテールです。
フラップポケットや袖口のタブも丁寧に縫い上げられ、生地の風合いと相まって実用性と美しさのバランスを保っています。

裏側に至るまで非常に端正な仕立てで、縫い割りの処理やステッチの均一さから、エルメスが洋服にも"工芸品の価値"を見出していたことがよく分かります。
80年代は既にプレタポルテ部門が確立していましたが、まだ工房的な空気を色濃く残していた時代。
布を触れば、その時代性をじわりと感じ取ることができる希少な一着です。
現代のエルメスとは違う、より"寡黙で実直な美しさ"がある80年代の本品。
ファッションとしてではなく、"道具として長く付き合える衣服"を追求していた時代の空気が宿り、羽織るほどに深みを増す唯一無二の魅力を備えています。

■size(cm)
表記サイズ:M
裄丈90/身幅62/着丈88.5

■textile
Shell:Cotton80% Polyurethane20%

■model

■condition
右袖のボタンが破損しておりますが、その他綺麗な状態です。
その他は画像をご確認下さいませ。

発送まで4日程度頂戴いたします。

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