1837年、ティエリー・エルメスによる馬具工房としてパリで創業した"HERMÈS(エルメス)"は、皮革細工の卓越した技術を核に、20世紀にはバッグやシルク、プレタポルテへと領域を拡張してきました。
大量生産とは距離を置き、素材選びと仕立てに宿る「用の美」を磨き上げてきた老舗。
ロゴよりも質、誇示よりも品位。静謐を旨とするメゾンの美学です。
1997年から2003年にかけては、マルタン・マルジェラがウィメンズのディレクションを担当し、ミニマリズムと機能性を極限まで研ぎ澄ませたコレクションを提示しました。
装飾を削ぎ落とし、日常にすっと溶け込むラグジュアリー。
エルメスにおける彼の遺産です。

本品は、その「エルメス×マルジェラ期」の精神を映すリネンジップジャケットでございます。
白一色のクリーンな表情。
高密度に織り上げたリネンは、空気を含みながらも腰があり、素肌に触れても心地よいドライタッチ。
前立てはジップを比翼で覆う構成とし、視覚的なノイズを極力排したミニマルな表情を形成しています。
胸元にはパッチポケットを配し、ポケット口およびフロントのスライダーには小ぶりなレザータブを採用。
素材のコントラストがさりげない陰影を生み、白の単色に奥行きを与えます。

袖口にあしらわれた「Hボタン」は、本時期のディテールを象徴する要素でございます。
主張しすぎず、袖に宿した小さなサイン。
ブランドのパーソナリティを静かに語る意匠です。
ヨーク一体の背面、運針の細やかさ、裾の緩やかなラウンドなど、縫製の精度も見どころ。
実用品としての堅牢さと、ドレスシャツの端正さを両立した設計でございます。

特筆すべきは、メンズで難なく着用いただける希少なサイズ感です。
ウィメンズラインで展開されたマルジェラ期のアイテムはもとより小寸の個体が多く、市場では男性が着用可能な個体に出会えること自体が希少。
春夏はカットソーの上に軽く、初秋は薄手のニットと重ねて。白リネンの清潔感は、色落ちデニムにも、オリーブのミリタリーパンツにも、ライトグレーのトロピカルウールにも好相性。
日常のワードローブへ自然に溶け込む汎用性です。

装飾で語らず、素材と設計で語る服。
控えめなレザーの引き手、袖口のHボタン、比翼で隠したジップ。
どの要素も声高ではないのに、佇まいに確かな説得力がございます。
エルメスのクラフツマンシップと、マルジェラの静かな革新が交差する一点。
メゾンの歴史に触れながら、いまの日常を軽やかにアップデートする—その役目を任せられる逸品でございます。

■size(cm)
表記サイズ:42
肩幅46/身幅59/着丈76/袖丈58

■textile
Shell:Linen100%

■model
176cm

■condition
着用感はございますが比較的綺麗な状態です。
その他は画像をご確認下さいませ。

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