1982年、イタリア北部の都市モデナにて誕生した"STONE ISLAND(ストーンアイランド)"。
ファッションの世界において"機能"と"美意識"を両立させた先駆的ブランドとして、その独自性は現在に至るまで色褪せることがありません。

創設者は、グラフィックデザイナー出身のマッシモ・オスティ氏。
彼は服づくりに対して極めて研究的な姿勢を貫いたことで知られており、アーカイブの軍服やワークウェアを徹底的に分析。
そこから得た構造的な知見や素材への理解をもとに、独自の手法を編み出していきました。

その代表格とも言えるのが、"ガーメントダイ(製品染め)"という染色技術です。
完成後の衣服を丸ごと染め上げるという手法は、それぞれの素材や縫製部分に個別の染まり方が現れ、立体的で深みのある表情を引き出します。
この技術により、同じモデルでも一点ごとに異なる風合いを持ち、量産品でありながら"唯一無二"のような存在感を帯びたウェアが生まれました。

また、STONE ISLANDを語るうえで欠かせないのが、テキスタイル開発における飽くなき挑戦です。
撥水性・防風性・耐久性・透湿性など、ミリタリーやスポーツの文脈で培われた機能性をベースに、化学繊維や天然素材を独自に再構築。
光に反応して発色が変わる「リフレクティブ」や、熱に反応する「サーモクロミック」などの革新的な素材は、まさにファッションとサイエンスの融合を体現しています。

一方で、STONE ISLANDのデザインは常に"実用"を起点としています。
ポケット配置、シルエットの動的設計、フードや襟の可動性、そして着心地と強度のバランス――すべてが「都市での生活」や「移動する身体」にとって意味ある機能として組み込まれています。

ブランドの象徴ともいえる左袖のコンパスロゴワッペンは、船乗りの羅針盤を模したデザイン。
それは"進むべき方向を見失わない"という哲学を内包し、STONE ISLANDがいかなる流行にも迎合せず、独自の道を切り拓いてきた姿勢を象徴しています。

1996年以降は、イギリス人デザイナーのポール・ハーヴェイがディレクションを担当。
ミリタリー由来の要素を踏襲しながら、より洗練されたアーバンユーティリティとして昇華させ、のちの"Ten c"にも繋がるストイックな美学を確立しました。

STONE ISLANDの服は、着る人に問いかけます——
「なぜこの素材が使われているのか」「なぜこの構造である必要があるのか」。
それは単なるファッションではなく、"考える服""語る服"としての力を持ち、長く愛される理由となっています。

本作は、2010年秋冬シーズンに登場したSTONE ISLANDの名素材"DAVID-TC(デイヴィッド・ティーシー)"を用いたブレザー型ジャケット。
ミリタリー由来の実用性と、現代的なエレガンスを絶妙に融合させたプロダクトとして、アーカイブファンの間でも高く評価される一着です。

DAVID-TCとは、ポリエステルとナイロンを高密度に織り上げた独自のファブリックに対し、縫製後、130℃の高温・高圧のもとで製品染め(ガーメントダイ)を施すことで、素材そのものの風合いと構造に変化を加える特殊加工素材。
このプロセスによって得られるのは、ややスエードにも似たタッチの柔らかさ、マットで奥行きのある光沢感、そして撥水性・防風性といった機能性です。

ブレザー型というとクラシカルな印象を抱きがちですが、本作ではSTONE ISLANDらしくミニマルかつ機能的に再構成。
チンストラップ付きの立ち襟は、クラシックな雰囲気とテクニカルな要素の美しい交差点を形成しており、ボタンを閉じて着用することで、まるでミリタリージャケットのような表情へと変化します。

フロントには3ポケット構成を採用。
胸元のフラップポケットと腰まわりのパッチ＆フラップポケットは、左右で微妙に非対称なバランスを持たせ、機能と構造の美を感じさせるデザインに仕上げられています。
また、トーンオン―トーンで仕上げられたステッチワークは主張を抑えつつ、着用時には立体感を引き立てる重要な要素となっています。

袖にはもちろん、ブランドの象徴であるコンパスロゴワッペンを配置。
本作ではナイトシーンや冬の街に馴染むよう、ブラックベースのトーンで統一されており、主張しすぎないアイデンティティの表現がなされています。

カラーはややくすみを帯びたグレージュに近い色合いで、DAVID-TC特有のマットな光沢が全体に陰影を与えます。
その表情は、光の加減によって温かみも冷たさも感じさせる絶妙なニュアンスを持ち、あらゆるスタイリングに柔らかく溶け込みます。

いわゆる"テックウェア"というジャンルが定着するよりも前から、STONE ISLANDは"技術を纏う"という思想を静かに体現してきました。
このDAVID-TCブレザージャケットは、その哲学が実用服として結晶化した好例であり、都市生活者のための現代的なミリタリーウェアと呼ぶにふさわしい一着です。

構造、素材、仕立て、どれを取っても理由があり、無駄がない。
そしてそれでいて、どこか情熱的な空気を纏っている——STONE ISLANDというブランドの核心が、ここには確かに息づいています。

■size(cm)
表記サイズ:M
肩幅44/身幅53.5/着丈74/袖丈68

■textile
Shell:Polyester65% × Nylon35%

■condition
全体的に着用感がございます。
その他は画像をご確認下さいませ。

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