ARNYS Forestière ― Appointment Only
SOLD OUT
1980〜90年代のパリ・モードを振り返るとき、"Thierry Mugler(ティエリー・ミュグレー)"の存在を避けて語ることはできません。多くのデザイナーが服そのものの装飾性や流行を競っていた時代において、Muglerが追求したのは人体そのものの再構築でした。
肩を誇張し、ウエストを絞り、身体を建築物のように扱う。
それは単なるシルエットデザインではなく、服によって人間の輪郭を変化させる試みでもありました。
後年のAlexander McQueenやJean Paul Gaultier、さらには現代のBalenciagaに至るまで、身体を再定義するアプローチの源流を辿れば、その一角には必ずThierry Muglerの名前が現れます。
特に90年代はブランドとして最も成熟した時代です。
80年代の過剰なパワードレッシングから一歩進み、より構築的でありながら実用性を備えた日常着へと表現領域を広げていった時期でもありました。
その流れの中で生まれたのがこちらのスラックスです。
一見すると非常に端正なブラックトラウザー。
しかし細部を観察すると、一般的なテーラードスラックスとは全く異なる設計思想が見えてきます。
まず目を引くのがウエスト周辺の処理です。
ヒップ上部にはクラシックなトラウザーと同様にダーツが設けられており、身体に沿った立体感を形成しています。しかしMuglerはそこで終わりません。
ダーツの上には独特な角度で差し込まれたベルトループが配置されています。
通常のスラックスに見られる垂直方向のループではなく、斜めに切り込むような配置となっており、機能以上に視覚的な役割を担っています。
本来ベルトループは目立たない付属パーツであるべきものですが、この個体ではウエストデザインを構成する重要な要素として扱われています。
ブランドロゴや装飾によって個性を主張するのではなく、パターンや構造そのものをデザインへ昇華させる手法。
遠目では気付かれないものの、近くで見ると一目でMuglerと分かる。
このベルトループはまさにその象徴と言えるでしょう。
ポケットの構造も実に特徴的。クラシックなスラックスであればスリットポケットが採用されることがほとんどですが、この個体ではLポケットを配置しています。
しかもポケット口は極めて細く処理されており、実用的なワークウェア由来のディテールでありながら、視覚的には非常にシャープな印象を与えています。
この年代のフランスブランドらしい合理性とデザイン性が共存した仕様です。
さらにヒップのポケットにはMuglerのスラックスで度々見られる金属ボタンを配置。
一般的なドレストラウザーに用いられる水牛ボタンや樹脂ボタンではなく、あえて金属を採用することで工業製品のような緊張感を生み出しています。
衣服としての柔らかさよりも、構築物としての強さを感じさせるディテールです。
シルエットもまたMuglerらしい完成度を誇ります。
腰回りには十分な分量を持たせながら、裾へ向かって強く整理されたテーパードライン。Muglerで見られる特徴的なバランスであり、身体を単純に隠すためのゆとりではなく、ヒップや腰回りの立体感を強調するための余白として機能しています。
アルマーニの流動的なドレープとも異なり、英国的なテーラリングとも異なる。フランスらしいシャープさと造形性が共存したシルエットです。
このスラックスの魅力は、決して派手なデザインにあるわけではありません。
それぞれ単体で見れば小さなディテールですが、それらが積み重なることで一般的なブラックスラックスとは全く異なる存在感を獲得しています。
華やかなランウェイピースが注目されがちなMugler、しかしながら実際にブランドの思想が色濃く現れるのはこうした日常着に近いアイテムです。
構造を装飾へ変換し、機能をデザインへ昇華する。
Thierry Muglerというデザイナーが、身体をどのように捉え、どのような輪郭を描こうとしていたのか。
その答えが、静かに縫い込まれた一本です。
■size(cm)
表記サイズ:50
ウエスト83/裾幅20/股上27/股下70.5/総丈97.5
■textile
Shell:Wool100%
Lining:Bemberg50% Rayon50%
■condition
綺麗な状態です。
その他は画像をご確認下さいませ。
発送まで4日程度頂戴いたします。
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