それは、ロンドンの石畳をすり抜ける霧のように静かに現れ、やがて強烈な色彩と遊び心で見る者を微笑ませる。
"Paul Smith(ポール・スミス)"の服を一言で語るなら、"英国の伝統に仕掛けられた、密やかなユーモア"。
ですがその微笑みの裏には、幾重にも重なる記憶と旅、そして確固たる職人技が宿っています。

ポール・スミス氏は1946年、イングランド中部・ノッティンガムに生まれました。
青年時代は自転車競技に情熱を注ぎますが、不運な事故で選手生命を絶たれたのをきっかけに、全く異なる新たな人生が始まります。
空いた心の隙間を埋めるかの様に、地元のアートスクールへと足を運ぶ様になった彼は、偶然と情熱に導かれるように、服作りの道を選び取ります。
彼のキャリアは、ある意味で"人生のやり直し"ではなく、"本来あるべき物語への帰還"だったのかもしれません。

1970年、ポール氏はノッティンガムに自身初の小さなショップをオープン。
売り場面積はたった3平方メートル、営業は週に2日。
しかしその限られた空間に詰め込まれていたのは、クラシックな英国のテーラーリングに、ウィットや色彩、異文化的な要素を巧みに織り交ぜた、唯一無二の世界観でした。

1976年にはパリで初のメンズコレクションを発表。
その後は瞬く間に国際的な評価を獲得し、90年代には名実ともにブリティッシュ・モードの顔役へと成長を遂げます。
とはいえ、ポール・スミスの魅力は、決して"流行の先端"に立つことだけではありません。
むしろ彼の服は、流行を軽やかにスキップしながら、着る人の人生にそっと寄り添うような感覚を持っています。
英国紳士のたしなみと、少年のような好奇心。
その両極が絶妙なバランスで共存しています。

此度ご紹介差し上げる一着。
それは、彼が90年代に放った機能と美学の融合。
表地はオイルドコットンを思わせる重厚な風合いを持ちながらも、実際にはナイロン混紡という軽やかさを兼ね備えており、雨風に耐えながらも、都会の空気に溶け込みます。
マルチポケット仕様は装飾ではなく機能を語り、ミリタリーをベースとしたフードのフォルムや、ライニングの大胆かつ唯一無二の彩色による切り替え、ジップラインの装飾性、ギミック溢れる各所のドローコード——
随所に至る細やかな意匠は、ポール・スミス特有の構築的ウィットが滲み出ています。

時代の薫る幻の逸品。
Jeansライン初期のプロダクト故の意匠性の高さ。
アーカイブウェアとして意義ある一着でございます。
圧倒的なそのポテンシャルを是非ともご体感くださいませ。

■size(cm)
表記サイズ:
裄丈98.5/身幅70/着丈75.5

■textile
Shell:Cotton68% ×Nylon32%
Lining:Nylon100%

■model
176cm

■condition
全体に使用感はございますが目立った傷等はございません。
その他は画像をご確認下さいませ。

発送まで4日程度頂戴いたします。

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