一枚の布に宿る意志があるとすれば、それは"GIANNI VERSACE(ジャンニ・ヴェルサーチェ)"の手によって、気高く語り始めることでしょう。
彼の服には常に、均衡を破るエネルギーと、視線を奪う磁力が宿っています。
控えめなエレガンスや慎ましさとは一線を画し、むしろその真逆を貫いた彼の美学。
それは、ギリシャ神話のメデューサを象徴とするように、見る者を瞬時に魅了し、逃れられぬ欲望へと誘う——
ジャンニ・ヴェルサーチェの名は、まさにそんな魔法のような力を持つブランドとなりました。

ジャンニ・ヴェルサーチェ氏は1946年、イタリア南部のレッジョ・ディ・カラブリアに生まれます。
仕立て屋を営む母の背中を見て育った彼は、幼い頃からファッションとテキスタイルに親しみを持ち、やがてそれは職人技と創造性の融合という彼独自のスタイルへと昇華してゆきます。
1978年、ミラノにて自身の名を冠したブランド"GIANNI VERSACE"を設立。
瞬く間にファッション界の寵児となり、1980年代から90年代にかけて、ジャンニ氏の創造は世界のトレンドの先端に立ち続けることになります。

彼のデザインは一貫して“優美”であり、“挑発的”であり、“劇場的”でした。
艶やかなシルクとメタリックなレザー、バロック的装飾とミニマリズムの緊張関係。
文化、歴史、ポップアート、エロス、そして死——
あらゆる要素が、彼のコレクションには絶妙に混在していました。
ただそこには、奇抜さだけではなく確固たる構築性と芸術性があり、それがヴェルサーチを一過性の流行ではなく、永続的な“様式”へと昇華させた所以と言えるでしょう。

また、ジャンニは単なるデザイナーに留まらず、“スターの衣を作る男”としても名を馳せます。
マドンナ、エルトン・ジョン、プリンス、そしてスーパーモデル時代を象徴するナオミ・キャンベルやリンダ・エヴァンジェリスタ——
彼の服を纏った彼女たちは、まるで神話の登場人物のようにステージやレッドカーペットに君臨しました。
ジャンニ・ヴェルサーチェの名は、90年代のカルチャーそのものを形づくるエネルギーの中核に存在していたことは自明です。

非常にシンプルに構成されたバルマカーンコート。
クラシックの定番で在る雛形で、最小限的な装飾性。
いわばミニマルな着地点へと到達した本品は、ジャンニの精神が確かに息づく、静かなる一着。
シルクの様に気品高く、艶やかに輝く光沢。
ポスト・ジャンニ期における2000年代のヴェルサーチェは、彼の遺した“グラマラスで挑発的なエレガンス”を継承しつつ、時代の空気を織り交ぜた新たな表現を模索していた最中。
その過渡期に生まれたこのコートは、派手さを抑えつつも、シルエットや素材の選びに彼の哲学が宿っています。
決して語りすぎない。
しかし確かに、着る人の美意識を浮き彫りにする。
そんなジャンニ・ヴェルサーチェらしい、陰影のある逸品。

時代性を反映したこの一着は、美への意志であり、時代を映す鏡であり、時として人の生き方そのものを問いかける装置。
ジャンニ・ヴェルサーチェの名の下に創られた一着は、その問いかけを今もなお続けている——
このバルマカーンコートもまた、そんな問いの一端として、ワードローブに静かに在ることでしょう。

■size(cm)
表記サイズ:50
肩幅51/身幅65/着丈94/袖丈64.5

■textile
Shell:Cotton55% × Nylon45%

■condition
目立った傷等無くグッドコンディションです。
その他は画像をご確認下さいませ。

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